日々のあれこれ 目白雑録4

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  • 朝日新聞出版 (2011年6月17日発売)
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感想 : 8

「一冊の本」は、ほぼ「目白雑録」だけのために定期購読していた。届くと真っ先に読んでいたのに、連載が終わってしまってがっかり。単行本の方を時々開いて、飢えを癒やす。ニヤニヤしたり、ヒャーッとのけぞったり、楽しんで読んでいる中からいくつか。

少し旧聞に属するが。オリンピックの東京招致に「失敗」した当時の知事石原慎太郎が、「自分の人生の中で非常にいい経験をしました」と述べたのに対して、「とても『知事』の発言とは思えない」「あなたの人生の経験についての感想を質問してるわけじゃないんですよ」「いつでも自分が主役だと信じる人物の自己愛の鈍さにまたもやびっくりしてしまう」と。そう、この人ってほんとに「鈍い」よね。そこが大物。

たばこを1箱1000円にしろという嫌煙運動の意見広告に対して、日本たばこ産業広報部が「たばこは合法の嗜好品」と反論したことについて。
「負け犬の遠吠えなどではなくキャンキャンと情け無い尾を巻いての悲鳴」「合法などという言葉まで持ち出して、これはこれでさもしいではないか」「古風に言えば、お上の許しを得ている女郎屋の亭主である」 いやまったくその通りです。

ジャコメッティが彫刻のモデルにしたことで知られる、矢内原伊作の〈実存主義的インテリ風〉風貌について。
「細長くて顔にシワがいっぱいあって髪の毛がもしゃもしゃしていて、後年テレビでブッシュマンのニカウさんがアイドルになった時、私は矢内原の顔を思い出したのだった」 つい笑ってしまった。

ある女性デザイナーのファッションを見ると「赤線地帯」という映画を思い出すという。それは首に巻いているスカーフのためで、「遣手婆ァを演じていた浦辺粂子と、年を取って派手な花柄の着物を着て身を売る三益愛子を思い出させ」「実に奇妙な印象なのだ」「ノドの弱い年取った女という印象である」と。私も、ここのところオバサンの定番化しているスカーフが苦手なので、我が意を得たりという感じであった。

村上春樹のあの「卵のスピーチ」にも、それを絶賛した内田樹の文章とともに、フン!という調子で言及されている。私は少し前に、村上作品に対してある一般読者が、「なんでいつも被害者ヅラ?」と感想を書いているのを見て、おお、これだ!と膝を打ったことがある。そう、村上春樹って良くも悪くも「世界に対する被害者」の立場で書いていて、そこが大きな魅力であり、また、ちょっと鼻につくところでもあるのではないかなあ。金井氏は大して問題にもしてないという書きぶりで、クールである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・紀行・回想
感想投稿日 : 2016年7月26日
読了日 : 2016年7月19日
本棚登録日 : 2016年7月15日

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