風 (百年文庫)

  • ポプラ社 (2015年1月2日発売)
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感想 : 11
4

こちらでフォローしている方のレビューにひかれて。いやあ、とても良かった。本を読む幸せをつくづくと味わった。

こういう機会でもなければ、徳冨蘆花を読むことなどないだろう。この「漁師の娘」というごく短い一篇、もう出だしからすーっとその世界に取り込まれて、目の前に霞ヶ浦と筑波山の眺めがありありと広がるようだ。一度も見たことがないというのに、それはひどく懐かしいもののように思われて、ゆっくりゆっくり、歌うように流れる文章をたどっていく。時の流れまでいつもとは違って感じられた。

続いて、宮本常一の名高い「土佐源氏」。これは「忘れられた日本人」に収録されているので、確かに既読のはず。でもどういうわけか、まるで初めて読むように新鮮に胸に迫ってきた。「漁師の娘」に出てくる老夫婦や、この「土佐源氏」のめしいた老人のような人たちを、私は知っているような気がしてならないのだ。そんなはずはないのに。

それはきっと、祖母の記憶につながっているからだろう。明治生まれの祖母が亡くなってずいぶんになる。聞くともなく聞いていた子どもの頃の話は、具体的なことが思い出せるわけではないが、確実に私の中にしみこんでいるに違いない。暮らしぶりの変化があまりにも激しくて、ここに書かれているような日本の姿は断絶した昔のようだが、ほんの二世代三世代、手を伸ばせばまだその影に触れられるように思う。初孫の私を大事に思ってくれていた祖母が、懐かしくてたまらなくなった。

老人の語りの中で、次の一節が心に残った。
「そりゃええ百姓ちうもんは神さまのようなもんで、石ころでも自分の力で金(きん)にかえよる」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アンソロジー
感想投稿日 : 2014年9月9日
読了日 : 2014年9月9日
本棚登録日 : 2014年9月9日

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