流星ワゴン (講談社文庫)

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レビュー : 2243
著者 :
nico314さん 小説   読み終わった 

久しぶりに本を読んだ。
年が明けてから、ダラダラと忙しくて、ワープロ仕事で目も疲れたしと、あれこれ理由をつけて、本を読む時間を確保しなかった。

で、久しぶりの一気読み。
やっぱり、重松さんは上手い。ギリギリの欲しいセリフを少しじらしたタイミングで言ってくれる。
素直になるには、こじらせた時間の分だけ必要な時間がある。それを、周りの人は待たなくちゃいけないのに、そんな簡単なことが当事者になるとわからない。
読んでいて、しまったと思うことがいくつもあった。


受験の失敗から引きこもりとなり、家庭内暴力までするようになった息子と家を空けることが多くなった妻。
自身もリストラされ、生きていることが億劫になった38歳のカズは、帰宅途中の最寄駅で、父子が乗ったオデッセイに出会い、深夜のドライブへ。
その父と息子は交通事故で5年前にすでに亡くなっていた。遣り残した思いや現実を受け容れられず苦しむ人をその人にとって大切な時間を取り戻すために案内を続けているという。
どこだかわからないが、2人はカズを大切な場所へ連れて行ってくれるというのだった。

カズは家庭崩壊が兆した1年前のある日へ連れられて行き、そこで38歳の父親・チュウさんにも出くわす。
意識不明で病院にいるはずのチュウさんが25年前の姿現れたのも、どうやらこのままでは死んでいけない強い思いがあるらしい。
中学生の頃から父親とだんだんとうまくいかなくなっていたカズは、チュウさんとの関係をやり直し、また、家族との危機に立ち向かうことができるのだろうか・・・。

少し前に、TVでドラマ化され、見るつもりで録画したものの結局消去してしまった。けれど、予告で見た香川照之さん演ずるチュウさんと、小説のチュウさんは印象がぴたりと重なっていた。
香川さん、いい役者さんだなあ。
いい役はもちろん、悪役でも人間の弱さが滲む深みのある演技が好きだ。
勝手に香川さんの声でチュウさんに広島弁をしゃべらせて、読んでいく。

連れて行かれた過去で最初は前回と同じ状況をなぞるにすぎなかったカズが、だんだんと自分がすべき対応やしたかった言動を主体的に選択するようになる。最後は、自分が言いたかったことを言い切ったと納得して旅を終える。
まるでただ夢を見ていただけのように、旅の始まりの夜の駅前に戻ってきた。現実の世界は何も変わっていなかった。
「バック・トゥー・ザ・フューチャー」のように、うまくはいかない。
けれど、深夜に帰り着いた自宅のマンションで、シンクに積み上げられた大量の食器を自分の手で洗い、片づけるのは気持ちがよかっただろう。
たまった洗濯物を要領を得ないながらも、洗い上げるのはどんなにすっきりしただろう。
バスルームの目地のカビも昨日は気づかなかった。
でも今は、気になり、こすり洗いをする。
朝になれば、自分でコーヒーを淹れ、朝食を用意する。

人は変わろうと思えば、変われる。
人を変えるのは難しくても、自分の行動や思考は変えられる。

どうにも辛くて、明日が来ることを信じられないときにも、誰かに話を聴いてもらうことができて、自分を整理することができるのなら、自ら一歩を踏み出す勇気が湧いてくるだろう。最後に温かな余韻を残している。

レビュー投稿日
2015年4月19日
読了日
2015年4月19日
本棚登録日
2015年4月19日
18
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