東京の下町にある古本屋『東京バンドワゴン』。隣りでカフェもやっている。
三代目の店主の勘一、伝説のロッカーである息子の我南人(がなと)。
我南人の子どもや孫を含め9人の大家族とご近所さんや常連さんが織りなす日常とささやかな事件の数々。
語り手は勘一さんの亡くなった奥さんのサチさんで、家族のまわりを彷徨いながら、見たことやその背景を教えてくれる。だから地の文が母親や祖母としての愛情やウイットに満ちていて、クスリとしたりジーンとしたり・・・。
これって、現在の朝ドラ「ごちそうさん」の語り手と同じ構図で、安心感があるんだよね。
昔気質の職人さんのような頑固で曲がったことが嫌いで、情に厚い勘一さん。
我南人の子どもの長女・藍子と長男・紺は聡く、思いやりと優しさに溢れている。
次男の青は女の子に甘くやさしく、次々に女性がらみの問題を引き起こしているようだけれども憎めない。
本巻ではシングルマザーの藍子のお相手や青の生みの親が分かるなど、実際に身の回りで起こるとなるとなかなか厄介なことも多いけれど、我南人の「LOVEだねぇ」の一言に救われる。物事の根源的な部分にある善悪や愛情さえ間違わなければ、実はそれ以外は表面的にややこしくしているのであって、丁寧にひとつひとつの絡まった糸をほどいていけば必ず解決方法はあるのだと教えてくれる。
我南人さん、かつては愛人がいて、今でも根無し草のようにふらふらして、幽霊のサチさんにもどこに行っているかわからないなど、60歳にして未だ落ち着かない人なんだけれど、腹の据わった愛情深い人でもあるんですよ。
10年たっても結婚を認めてくれなかった長男の嫁の父親に頭を下げに行ったり、シングルマザーの長女の出産をあれこれ詮索することなく認めてくれたり・・・。
家族に興味がないのでは決してなくて、ここぞという時にしっかりと家族を支え、進むべき道を示す。
ふらふらしているけれど、軸ははっきりしているのだよねぇ・・・。
にぎやかで騒々しい朝ごはんの風景。
息抜きには、近くの小料理屋へ。
兄弟仲睦まじく、悪い人はでてこない。
ご意見番的な神主さんや外国人画家、人物の配置も絶妙で・・・。
う~ん。
「あまちゃん」的で、「寺内貫太郎一家」的で、「ちりとてちん」的で、我南人さんは現代の「寅さん」のようでもある。
あまロスを感じた人には、ぽっかり空いた隙間を埋めてくれると思いますよ。
結局おいしくご飯が食べられて、信頼できる人に恵まれればそれで十分幸せだと改めて思う。
あれれ、「ごちそうさん」的でもあったのね・・・。
- 感想投稿日 : 2014年1月13日
- 読了日 : 2014年1月13日
- 本棚登録日 : 2014年1月13日
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