政と源

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本棚登録 : 2923
レビュー : 508
著者 :
nico314さん 三浦しをん   読み終わった 

元銀行マンの有田国政とつまみ職人の堀源二郎は共に73歳で、墨田区に住む幼なじみ。日常の出来事が政の目線で語られている。

政の妻は数年前に長女の家に行ったきり帰って来ず、一人暮らしを強いられている。源はずいぶん前に妻を失くしたが、未だ現役の職人で元ヤンの弟子・徹平もいて、なかなかにぎやかに暮らしている。

源はがさつで言葉も荒くいい加減なところもあるが、弟子や友人に対する思いやりにあふれ、自分らしく生きているように見えて、政にはうらやましく若干の嫉妬も感じてしまう。

政は親の期待に応えるべく、大学を出て銀行に就職し、見合い結婚をして定年まで勤めた。家族のためにと働いてきたのに、妻には理由もわからないまま愛想を尽かされ、2人の娘たちも妻の方に加勢しており、いいところなしだ。
会話のたび、周りの言葉に対して心の中でいちいち毒づく。ひがみっぽくて、欲しいものを欲しいと素直になれず、いつまでもいじいじしてしまう。


第2話では、本当は孫の七五三の祝いに源のつまみ簪を送ってやりたいと思いながらも、なんだか源を頼りにするのが癪であたりさわりのない商品券を贈ったり、

第5話では、源の一言からいよいよ重い腰をあげ妻を迎えに行くが、妻や長女の態度が自分に対してあまりに思いやりがなさすぎると憤慨した上に爆発し、却って総攻撃を受けて撃沈しヤケ酒を飲んだり。

やるせないなあ・・・。

政の独白には、こう言われたらこう思ってしまうなあと苦笑しながら読むんだけれど、第5話の家族のやり取りは笑えなくなってくる。相手の心がまっすぐに離れていくのにも気づかずに、相手の悪いところを責めてしまう。心の中でつい呟く言葉も、活字にするとかなりきつい。耳にする人はうんざりすることでしょうね。

相手にしてもらうことばかりを考えているうちは気づかなかないことも多い。見返りを求めずはがきに日常や心境をつづり送る行為を通して、「こうあるべき」と縛られ不自由になっていた気持ちが穏やかになっていく様子にほっとする。

心が弱っているとき、ひとりぼっちだと思い込んでしまうと辛く、嫉妬や僻みといった気持ちに振り回されて、ますます自分らしさを保つのが辛くなっていくもの。
元気なとき、うまくいっているときには気にならないことも、ささくれた心にいちいち入り込んで、傷にしみるような痛みを伴う。

それでも、「がまくんとかえるくん」のように政には源がいて、やっぱり幸せなのがいい。
しおんさんは人を見捨てることは決してせずに、気づくことで人が変わっていく姿をちゃんと描いてくれる。

気づかないと決め込んで諦めたくなるようなことがあっても、
うまくいかない自分に嫌気がさしても、
なんだかうまくいっている人を妬んでしまって却って苦しさが増すようなことがあっても

「大丈夫。みんな同じ。支えられ支えているんだよ」

と言ってくれているような気がして、少しばかり指先が温まったのを感じて、本を閉じた。

レビュー投稿日
2014年2月8日
読了日
2014年2月7日
本棚登録日
2014年2月8日
11
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