ラテン・アメリカ≒マジックリアリズム、なんて言うけれど、フェンテスの場合は、どうだろう、西洋ゴシックホラーの影響をかなり受けているらしく、最初の「チャック・モール」からそれは前面に押し出されている。怪異は描かれるが、それはあくまで怪異のままで、怪異として描かれるから、マジックリアリズムを感じることはなく、それだけある意味では普通に読めた。ただ、彼の場合は、おそらく他のラテンアメリカ作家以上に、ヨーロッパ・祖国メキシコという自らの出自の対立を意識していて、メキシコを語りながら、あるいはヨーロッパを語りながら、かなり明確な形で、もう片方が対置されている、そこが面白かった。
時間の解体によるゴシックホラーの演出が何よりすばらしく、「人形女王」と「アウラ」は大傑作だと思う。意味が虫食いになって、欠落して、論理的に不整合になったとき、それは起こりえないこととして、「怪異」の様相を帯びるわけですが、その欠落した意味を埋めていこうとする本能的な働きが、再びその像を可能な限り修復して提示したとき、意味の断片が悲劇的な結びつきを見せる、そういうことはあるもので、この両作品では、その空洞が本当に素敵だった。時間の解体は、あらゆる過去の再来を期待させるし、あらゆる未来の抹消も保証するから、われわれは、埋め合わせのあり方を、より自由なものとして、つまりあらゆる埋め合わせを、より可能なものとして捉えられるようになるのだけど、そうであるからこそ、結びついてはいけないものを結びつけ、線形な時間の上で安定を保っていた美しさを壊してしまうこともあり、「アウラ」はそのような話として読んだ。もしそうであるならば、悲劇の源泉は何よりもヨーロッパ的な世界観に求められるものということになり、その辺がフェンテスのメキシコ人たるアイデンティティの主張だったのかな、と、思う。
良い小説集でした。ゴシックホラー風味が、ちょっと、小川洋子にも通じるところがあるかも。あまりラテンアメリカラテンアメリカしてないから、ラテンアメリカ苦手な人にも、オススメできそうです。
- 感想投稿日 : 2011年2月2日
- 読了日 : 2011年2月1日
- 本棚登録日 : 2011年2月1日
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