潮騒 (新潮文庫)

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本棚登録 : 6909
レビュー : 844
著者 :
niko-tokoさん 昭和文学   読み終わった 

潮騒。
三島由紀夫29歳、金閣寺をかく2年前のときの作品。新治と初江の初々しい恋の物語である。三島由紀夫にしては血や暴力の匂いを消した、磯臭い純粋な青春を描いた作品であった。村の漁師や海女たちの生活は、労働こそ生であり、豊穣な自然の中で、自然と闘い、委ねる喜びに満ちていた。新治が世話になっている灯台の家にヒラメや鯛などを届ける際のその魚たちの生々しい獲物としての描写は、古来より他の動物の命を搾取していきてきた人間としての誇りと自覚と感謝を喚起するものであった。後半の、初江と手をつなごうと思ったが鯛により手がつなげず、帰り道では無事つなげた、という描写が気になった。これは、小説最後の部分での、新治が沖縄での冒険を切り抜けたのは初江の力ではなく自分の力だという確信とも関連があるのではないか。一見して恋愛小説だが、この作品の裏のテーマとしてはそもそもの人間の生活があり、そこには生と死がある。人間は二人で生きる以前に一人で生きなければならず、そのためには己の意思で汗水たらして働き、自然の恵みから食事をいただかねばならない。小さな島で力強く生きる新治の若い輝きこそ、この作品を青春小説たらしめている光なのかもしれない。
荒れ狂う海とそこでの新治の海の男としての戦いの描写は、読者も激しい波にのまれて息苦しくなる錯覚を覚えるほど圧巻であった。三島由紀夫の魅力は、暴力的な強さのなかの緻密で計算された表現であると再確認させられた。

レビュー投稿日
2015年1月2日
読了日
2015年1月2日
本棚登録日
2015年1月2日
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