魚舟・獣舟 (光文社文庫 う 18-2)

著者 :
  • 光文社 (2009年1月8日発売)
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本棚登録 : 1029
感想 : 142

 長編『華竜の宮』『妖怪探偵・百目』『火星ダーク・バラード』にもリンクするSF短編集全6篇。

「魚舟・獣舟」
 陸で生きることを選んだ主人公と、海で生きることを選んだ幼馴染の、再会と決裂の物語。もともとは人為的操作で生み出された「魚舟」が、人間の手を離れ、生存のために進化していく。
 ハンディキャップ理論に着想を得て描き出される生命の進化の営み、人間の暴力的な力さえ利用して生きようとする凄みを感じた。

「くさびらの道」
 茸の寄生型感染病により九州地方が壊滅した日本を舞台にしたバイオホラー。茸の胞子から出る化学物質が、人間に幽霊の幻覚を見せるという設定で、幻覚とは思えないほどの幽霊の苦悶の姿が印象に残る。
 思い出を美化してしまう人間だからこそ、故人への思いに縛られるさまはとても悲惨だった。

「饗応」
 ビジネスマンが旅館でくつろぐお話かと思ったら、浴場でいきなり関節パーツが外れて驚いた。いったいどんな種類の話か見えずに読み終わってしまったが、ようやく話の趣旨を掴むと、切ない結末ではあるけどシンプルで良い雰囲気のショートショートだった。

「真朱の街」
 人体がデバイスで補完可能となった街で、人間と妖怪が同じ「異形」の者として共存を始めるという世界観が面白い。珍しくファンタジー要素が強めで読みやすかった。
 中途半端な悪意で他人を傷つけ殺してしまう人間の弱さが痛々しくて、読んでいて少し辛い。

「ブルーグラス」
 変態ダイバーが感傷に浸っていたら職質された話。基本的にロマンチストは好き。

「小鳥の墓」
 実験的教育都市に放り込まれた少年が、そのシステムゆえに歪んだ価値観を作り上げていく様子を描いた中編小説。人物描写や台詞回しが芝居じみていてあまり好きになれなかったけど、お話の軸がしっかりしていて面白かった。
 倫理的問題から、実際には人間に多大な悪影響を及ぼす可能性のある実験が許可されることはない(だろう)と思うけど、犯罪者の生まれる過程を割り出そうとする試みは魅力的だと思ってしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2014年10月17日
読了日 : 2014年10月16日
本棚登録日 : 2014年10月17日

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