ナースの卯月に視えるもの (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2024年5月8日発売)
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10月下旬の朝日新聞の書評欄で見て「読みたい」に入れていた。

総合病院の長期療養型病棟に勤めるナースの卯月には患者の心残り、そのことにまつわる人物の姿が視える。彼女がその「思い残し」を解きほぐし、より良い看護を目指して奔走する日々が描かれる。
「思い残し」に対しては少々おせっかいという感じもし、途中で哀しい理由が明かされてああそうかとは思ったが、それで血糖値を測り忘れてはいけないな。
それぞれの「思い残し」は結構あっさりと解決するのでお話のアクセントとしては適当という気もするし、後半には、様々な「思い残し」と向き合った末に本来の健全な看護の状態を見つけ出す成長の姿を見ることができるので、まあ、いいとするか。

「思い残し」の解決以上に、看護師として働く人たちの生活や心情がしっかり書き込まれているところがこの本の読みどころ。
作者さんは看護師として10年以上勤務してきた方らしく、看護の様子に加え病室の臭いだの夜勤明けの変なテンションだの細かな描写に現場の人の感覚を感じる。
長く長期療養型病棟で勤務し将来に悩む卯月、研修期間でその仕事に悩む水木、ミスに落ち込みながらも今やらなければならない仕事に取り掛かる山吹、送別会で自らの心情を吐露する透子さん、自分と仕事と患者さんのことを考え、悩み、日常を進めていくそれぞれの姿がリアルに感じられ、とても良かった。
最終話の結婚式は出来過ぎだとは思うが、こういうのに弱いのだな。とても良い気持ちで読み終えることができた。

実際に入院してお世話になったこともあるので、それは大変なお仕事と思ってはいたが、自分のミス一つで誰かが死ぬかもしれないという責任の重さの割に恵まれない環境で働いておられる実態も知れ、改めて頭が下がる思いがする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2024年読んだ本
感想投稿日 : 2024年12月28日
読了日 : 2024年12月26日
本棚登録日 : 2024年12月28日

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