「日本蒙昧前史」がすごくおもしろかったので続きもと思って読んだけど、まさかパンダ初来日や石坂浩二の結婚の話を読むとは思わなかった。別に興味あるわけでもない話題なのに、リズムよくうねうね続いていく文章をどんどん読んでしまう。まるでその場を見てきたかのようで、当事者本人が書いているようで、小説みたいな当事者目線。パンダが初めて中国からやってきて、絶対殺すなと政府高官に脅され、パンダの生態もまったく知らないままに飼育することになった飼育員の話はすごくおもしろかったし、石坂浩二とか浅丘ルリ子とか加賀まりことか検索しながら、そうなんだーと驚きながら読んだり。(これらの俳優たちはもちろん知ってるけど、彼らが若いころのあれこれとか恋愛関係とか知らなかったし、興味ないなと思いつつ、やばくない?とかおもしろがる。もちろんすべてが事実ではないんだろうけど)

オイルショック時の話もいきさつとか事実関係みたいなことがわかって興味深かった。結局、アメリカはイスラエル支持だけれど、日本はアメリカに反することになってもアラブ側についたっていうことも知ったし、今のイスラエル問題についても、アメリカとイスラエルが組んでいて、イスラエルとアラブ諸国が敵対している、みたいな超超基礎的なことを確認できたような。

2025年5月19日

読書状況 読み終わった [2025年5月19日]

書かれているのは毎日ほぼ同じことのくりかえしみたいだし、こういうふうにひとりで田舎で庭づくりとかしたいわけじゃまったくないし、特に共感することもないんだけど、出るたびに読んでしまうのは、この淡々とした日記のドライな感じが好きなのかなと思った。ウェットさが皆無というか。近年はエッセイっていうものをあんまり読まなくなって、なんとなくエッセイってテーマやオチがあってけっこうエモーショナルだったりするのが苦手かもと思ってきて。日記でも、エッセイ風だとちょっとなと思ったりもするんだけど、この日記はそういう感じがなくて。あと、今回はタイトルにもある「すごくなくていい」っていうのはよかったかも。そう、なにをするにも、別に、すごくなくていいんだよな、とか。

2025年5月17日

読書状況 読み終わった [2025年5月17日]

2時間2分だけど長さを感じず、わかりやすいしテンポもいいし、おもしろかった。
若いころのドナルド・トランプは意外にも、親の不動産会社で家賃の取り立てしてるみたいな、ごく普通の青年だったように見えて驚いた。イヴァナともごく普通に恋して結婚したように見えたし。
ロイ・コーンについては、わたしは名前と悪い評判をなんとなく知っていた程度だけど、本当に悪い奴、悪徳弁護士だったとわかった。そのロイ・コーンに目をかけられたトランプがロイ・コーンを手本にどんどん悪い奴になって成功していくという。目をかけられてなんか変に自信をつけたみたいな感じなのかなと思う。ロイ・コーンに教わったルールをずっと実践してるってことなのかも。

ロイ・コーンが失脚して落ちぶれてエイズにもかかってボロボロになり、トランプにもひどい扱いされたりして、ひどい目にあっていいクソ悪い奴なのになんか、こんな最期って……人生って……とか思って悲しい気持ちになったのは、演じたのがジェレミー・ストロングだったからかも。ジェレミー・ストロングはドラマ「サクセッション」で見てすごいと思ったけど、狂気とか凄味とかに加えて人生の悲哀を感じさせるというかなんというか。いつも悲しい人、というか。
トランプも、しゃべり方が現在の実際のトランプのしゃべり方そっくりですごいと思った。

あと、いかにも80年代のニューヨークっていう、エネルギッシュだけど猥雑で、汚くて犯罪の巣窟っぽくて、エイズの怖さとか陰鬱な感じがあって、ああニューヨークって昔こんな印象だった、と思ったりした。(っていっても映画とかのなかで見た印象だけだけど)。

2025年5月17日

読書状況 読み終わった [2025年5月17日]
カテゴリ 映画

これも「おすすめ文庫王国2025」の現代文学ベスト10に入っていて読もうと思っていたもの。
歴史改変モノで、ストーリーは、もしも史実と違って、1940年の大統領選挙でローズヴェルトが勝たずに、太平洋単独横断飛行を成し遂げた飛行家にして親ナチスのリンドバーグが大統領になったら??という設定で、少年フィリップ・ロスのユダヤ人家族の様子が描かれる。歴史的政治的な話が難しいかなと思っていたんだけど、確かにそういう部分は読みやすいとはいえないけれど、家族モノとしても読めておもしろかった。少年の視点なので少年小説、児童小説っぽさもある感じがするし、ユーモアもあるし。
無知なわたしはリンドバーグが親ナチスだったという事実もわりに最近知ったんだけど、確かにヒーローなわけだし演出によっては国民の人気も出るだろうなと。そしていちばん思ったのは、「ローズヴェルトは戦争をはじめようとしているからよくない。いくらファシズムやユダヤ人迫害を許さないためであっても戦争はしてはならないのだ」と主張されたら、そうかも?と考えてしまいそう、と。まして、自分がユダヤ人ではなかったら? ユダヤ人のために戦争をはじめるの?戦争の犠牲になるの?と思ってもそう不思議ではないと。「反戦」がつねに正しいわけではないのか? じゃあ戦争せずにナチスを止めるにはどうしたらよかったのか?とか考えだしたら、なんかもうどうしていいかわからない気がしてきたり……。

そしてリンドバーグが大統領になり、状況がじわじわとユダヤ人迫害方向に向かっていくところが恐ろしい。じわじわ、という感じ、一気に、ではなく、巧妙に少しずつ、という感じがまさに恐ろしい。いかにも、ユダヤ人のためを思って、という体で、ユダヤ人だけでかたまらずにほかのアメリカ人に交じっていってください、と、ユダヤ人家族をテキサス州とかのユダヤ人コミュニティがない土地に移住させるとか。わたしなんか、巧みにだまされてしまいそうな気がするし、だまされているとわかっいても逆らえずに従ってしまいそう……。でもロス家のお父さんは、最初からずっとリンドバーグ政府に断固反対していたし、会社を辞めさせられることになっても移住に従わなかったし、すばらしいなとか思った。そしてお母さんも、元隣家の子のセルドンを助けたときとか涙出そうだった。パニック的な状況でも落ち着いてすべきことをして、子どもを守ろうとして。ああいう行動をとれるようになりたい、とか。しかしなにより、ものすごく心配性で繊細なフィリップ少年の気持ちを思うと、ことごとく本当に胸が痛む。。。

リンドバーグ政府のままどんどんどこまでも悪い方向へ行ってしまうのか、ロス家が追い詰められてしまうのかと予想していたんだけど、そうはならず、ナチスの陰謀みたいな話に落ち着くというか、ローズヴェルトが復活して解決したというか歴史が戻ったので(そういう解釈で合ってる……?)ので、わたしとしてはホッとして、読後感がそこまで悪くなかったのもよかった。

2025年5月15日

読書状況 読み終わった [2025年5月15日]

この著者の前二作とは違ってこれは今の日本が舞台なんだけど、すごくおもしろかった。上から目線みたいで失礼だけど、えー、この著者、企業小説、経済小説みたいなのもなんでも書けるんだー!すごい!とか思った。新興のヘッジファンド会社とか、悪徳でパワハラな不動産会社とか、投資セミナーとか、特殊詐欺とかについて、わかりやすいというか、そういうふうにやってるんだー、みたいにわかって興味深く読めて、そのうえ、それにかかわる登場人物はちゃんと人間らしいというか、普通の人がどんなふうにそういうことを始めて、さらに悪にからめとられていったりするのか理解できるというか。(わたしなんかも場合によってはすぐ乗せられてだまされそうだなとか……)あと、SNSについても、X(ツイッター)のいかにもあるあるな定型文の再現とかも秀逸でおもしろいし、とにかく全体的に、今のこの社会の状況をすごくよく見ていてよく分析していて、うまく描いているという印象で。
で、そういう悪にからめとられていく普通の人の話って、どんどん最悪な方に転がっていって絶望するみたいなほうがリアルに感じるし、小説としておもしろくなりそうで、ありがちと思うんだけど、そうはならないところがよかった。登場人物たちが絶望しない、あきらめない、悪に染まり切らない、立ち直る、っていうのが、多少ファンタジーめいて(というか希望的観測に)見えるところがまったくないとは言わないけど、個人的には好き。こういう希望があるところがもしかしたらこの著者の持ち味なのかもとも思ったり。
著者のインタビューで、『自分本来の「夢」が誰かに操作されてはいないか、と疑ってみないと』っていう言葉があったのだけど、まさにそう。現代社会を生きていくには、いろいろなんでもだれかに「操作されない」ことが大事ではないかと。困難だけど。

2025年5月11日

読書状況 読み終わった [2025年5月11日]

町屋良平、初めて読んだ。この作品は評判もいいし、ずっと気になっていてやっと読んだんだけど、読んだことないタイプの小説でわたしには難しかった、という印象。まず、するする読める文章ではなくて、特に初めのうちはだれがしゃべっているんだろうとか、どういう意味なんだろうとか、どういう含みがあるんだろうとかひっかかりながら読んでいった。
ストーリーとしては、どちらも俳優やってて家庭が複雑な高校生ふたりが同じクラスになって、クラス内でもいろいろあって、とある撮影を通じて仲良くなる場面もあり、文化祭では一緒に演劇をつくりあげていく、とか青春モノとして読める感じもあってそこはおもしろかった。(いまどきの高校生ってこんな感じなのかな、とか)。風景や流れる時間の一瞬をとらえたような美しい描写もたくさんあるし。俳優業舞台裏みたいな話はそれほど出てこなくて少し残念な気もしたけれど。「演技」っていうところでは、いまどきの、他人に自分をどう見せるか、とか、場の空気を読む、とか、本当の自分の意識、とかの話でもあるけれど、さらに、場の空気を読む、の「場」が現在ここにある空間とか一緒にいる人たち、ってだけでなく、過去からずっと続いている「場」、そこにいたことのある人々、今はもう死んでいる人々も含めた人々の意識とか記憶が蓄積されている「場」でもあるとされていて。舞台が東京都の立川で、戦時中そこには軍用飛行場があって空襲で大勢が死んで、と戦争の話につながっていく。わたしは詳しくストーリーを知らずに読んでいたので、高校生が文化祭でやる演劇が「立川米軍俘虜虐殺事件」についてだっていうのも含めて、戦争の話につながるとは思っていなかったのでけっこう驚いた。まあ、さらにその演劇上演中に起きたことには本当にものすごく驚いたのだけど。なんか、演劇をやることで成長するとかハッピーエンド的な方向にいくのかなーとか思いながら読んでたら見事にまったく違って、予定調和的なところが1ミリもなくてすごい。
考えさせられたのは、戦時中の体験などをのちに語ると物語とかのフィクションの形になるわけだけど、それはどういうことなのか、いいことなのかどうなのか、とか。そういうことを大学で研究していた先生が語る部分が興味深かった。よく理解できなかったところもあるんだけど。その先生自身も考えあぐねているというかうまく言葉にできずにいて、そういう文章を読むのにも正直、忍耐が必要だったし。(そもそも、この小説全体が長くて難しくてわたしの気力体力がついていけなかったような感じもあったり)。小説全体でもところどころで、そういう考えあぐねているような感じは出てきて、でも、それがリアルで嘘がないようでよかった気もする。
そして、これも難しかったんだけど、逆にフィクションが救う、という、たとえばこの演劇のなかで、史実とは違って、俘虜殺害を憲兵が「やめろ」と止めたらどうなるのか、っていうところでも考えさせられた。「フィクションが破れて初めて行ける現実が、歴史を越えて人類に救をもたらすかもしれなくて」。物語やフィクションというものに希望を見たい……。

いやー、何度も言うけど、難しかった。
すでに死んでいる人が出てくるとか幽霊とかいった要素はそもそも苦手だし。もう一度読んだほうがいいと思うけどまたそのうちに、かな。

2025年5月5日

読書状況 読み終わった [2025年5月5日]

邦訳は、ジョン・グリシャム「告発者」。
ひさびさのジョン・グリシャム、あちこちで評判いいみたい、と思って読んでみたんだけど、おもしろくないってわけではないけどわりと普通だった……。
(2016年の作品で邦訳が2024年に出た、と今知った……。10年前の作品で新作じゃなかったんだ……。)

フロリダ州の先住民が住む地域で、マフィアと判事が結託して不正ざんまい、カジノでぼろ儲けしていることを暴いていく、っていう話で。判事の不正を調べる機関が調査していくってことで、目新しい感じの裁判モノ、法廷モノなのかなと期待していたらそういうわけでもなかったし。法廷場面もなかった……。
衝撃的な展開もあるし、「告発者」がだれなのか最後までわからず、仲介役がいるとかっていうおもしろさとかもあったけど、なんというか登場人物それぞれの内面に踏み込むまではないのがものたりなかったというか。まあミステリ読むのがけっこう久しぶりなので、ミステリってこんな感じだったかもと思ったり。
ラストで、犯罪に対する裁判のゆくえとか刑罰についてが淡々と述べられるので、ふと、これって実話??ノンフィクションだった??とか思ったけどそうではないみたい。

2025年5月1日

読書状況 読み終わった [2025年5月1日]
カテゴリ 洋書

159歳まで生きて明治維新から平成までを見てきた男、という話なんだけど、それほどSFファンタジーぽさはなくて、一般人の目から見た歴史という感じ。もっと政治的な事件やできごとについて語られるのかなと思っていたんだけど、それよりも、たとえば文明開化、日露戦争、関東大震災、第二次世界大戦、終戦、オリンピック、高度経済成長などを、ごく一般の人たちがどういうふうに見ていたか、そのころどんなふうに暮らしていたかがわかる感じだった。本当にその当時実際に生きていた人の思い出話のようにリアル。主人公159歳まで生きた男が子ども~若者までの時代、つまり明治、大正、昭和の戦後くらいまでの話がより詳しい感じだけど。
やたら長寿であることの説明も、不老化した細胞が…、とか思ったより現実的な感じで(でもちょっと「精霊」とかは出てくる)、ロッキード事件でも有名なフィクサー児玉誉士夫(あんなに当時有名だったのに名前忘れてて検索してしまった…)がモデルの人物が、自分も不老不死になりたいからと主人公に近づくとかおもしろかった。
ラストのほうで、時間の哲学みたいなこととか、死生観みたいなことを考えさせられて、個人的にだけどけっこう暗い気持ちになった……。結局、若いころにはいろんなことを見て経験できるけれど、長生きしたとしても晩年はやはり暇を持て余して孤独になる、っていうか……。
日本の未来についても、実質「滅びる」ことが短く書かれているし。
でも、著者は絶望してはいないと感じられてそれはよかった。
「悲惨な事態をできる限り避けようと努力し、非情な運命から逃れようとし、また日々の暮らしの中に安らぎと楽しみを得ようともしてきた。そして、それらの営みを忘れまいとした。」すべてはそれでいい、というような。

2025年4月23日

読書状況 読み終わった [2025年4月23日]

この著者初めて読んだけど、「おすすめ文庫王国」現代文学のベスト10に入っていたので読んでみようと思っていて。
すごくおもしろかった! 評判どおりもうとにかく語り口がすばらしく、文章がめちゃめちゃ上手なんだろうけど、なんでこんなになめらかにここちよく読めるのか、っていう。別に言葉が平易とかではないんだけど。そして、ノンフィクションとフィクションがものすごくうまく入り混じった感じが、読んだことないような不思議な読み心地というか。
戦後に起きたできごと、グリコ森永事件、大阪万博、五つ子ちゃん誕生、横井庄一さん帰還などが、章立てもなく次々語られていく感じで、固有名詞が出てこなくて、はっきりこの事件の話ですと書かれているわけではないんだけど、当時を知っている人にはあのことだとわかる。わたしは1964年生まれで当時は子どもだったけどそれでもすぐわかるので有名なできごとだったわけで。(ただ、政治に疎すぎて福田赳夫はわからなくて検索した)。でも今の若い人とかはなんのこと?なのかも。
で、事実と創作が混じっていて、当事者しかわからないような状況とかそのときの心情なども事細かに語られる部分があるのがすごくおもしろい。たとえば、五つ子ちゃん誕生だったらお父さんの気持ちとか、横井庄一さん(第二次世界大戦中、日本軍兵士としてグアム島で闘っていて終戦後もジャングルに潜伏してサバイバル生活を続け、28年後発見されて帰国した)が潜伏中どんな暮らしをしていたかとかそのときどきの心情とかが小説のように書かれている。特に横井庄一さんは、帰国してから亡くなるまでどんな人生だったかのも細かく書かれていて、それもすごくおもしろくて、気づいたら読み終わっていてびっくりしたくらい。
あと、今(2025年4月)ちょうど大阪万博が始まったところなので1970年の大阪万博の話も興味深く読んだ。なんか今も昔も、なんで開催?っていう感じが同じなのが笑えたけど、でも当時は今と違って、未来は明るくてなにもかもよくなる、みたいに考えていたんだろうなと思える……。
でもこの本が書かれた2020年にもなれば、著者のいうとおり、「いかなる国家も、愚かで、強欲で、場当たり主義的な人間の集まりである限り、衰退し滅亡する宿命からは逃れられない、我々は滅びゆく国に生きている、」ってわけで。だから「蒙昧」ってタイトルで。

続編の「日本蒙昧前史 第二部」が出てるのでそれも読まねば。

2025年4月19日

読書状況 読み終わった [2025年4月19日]

短編4つ、どれもするする読めてほぼ一気読み。おもしろかった。やっぱりユニークな文体というか言葉づかいとかが好き。
美容整形する女子の話、Youtuberファンの女子の話、不倫夫の話は、ストーリーとして読んでてすごくおもしろんだけど、個人的には、共感するところがあんまりないな、なんかぶっとんでる話だなーと思った。(作家とライターと編集者のメールやりとりは、けっこうわかる、と思ったけど。)
結局なにが書かれているのかな?とか思ってしまって(基本、そんなこと本読むときに考えなくていいと思っているんだけども)、ちょっとレビューとか検索したら、コミュニケーションの切断、徒党を組んで圧をかけられることへの反発、みたいな感じが書いてあったりして、なるほどと思った。望まないのに続けなきゃいけない他人とのコミュニケーションや、まわりの人々からのジャッジや圧力とかに耐えきれずに爆発するみたいなことかな、と。その爆発のしかたがぶっとんでいる、という。
コロナ禍のころが舞台なのでそのころの息苦しさのようなものとかも関係するのかも。

4つのなかでは、美容整形する「眼帯のミッキーマウス」がわたしはいちばん好きだった。主人公のことを思うとなんか胸が痛む。

2025年4月16日

読書状況 読み終わった [2025年4月16日]

最近の金原さんの作品は「陽キャ」の明るい雰囲気が勝っていたような気がするけど、これは、おもしろくてどんどん読んではしまったけど、昔の金原作品のような毒気がすさまじい感じがして怖かった。特にラストのほう、狂気とか破滅が加速されて爆発するかのようで本当にショッキングだった。衝撃的すぎて、うわぁーーーとか思いながら読んだ感じ。

ストーリーはすごく簡単に言うと性的搾取とかMetoo問題がテーマで、主人公が小説家で出版業界が舞台になっている。編集者や作家の本音みたいな話はミーハー的に興味深い。本好きとしては出版業界に対して憧れもあるけれど、憧れて入りたくて入る人たちばかりでそこに自己実現みたいなことが強く絡むからより複雑な状況になるんだろうかと思ったり。いやどの業界や会社も同じか?…。

年代や性別もいろいろな人たちの視点で語られていき、その人それぞれの考えていることがもうめいっぱい、圧倒されるくらい書かれている感じ。ここまで突き詰められるのはすごいと思ったし、また不思議と、まったく自分とは遠い人物なのに共感できる部分がたくさんあってそれもすごいと思った。そして、人間は本当にそれぞれまったく見事なくらい考え方が違う、ということを思い知らされたような。よく言われる「連帯」なんてありえないなと思っちゃうような。こうなると、簡単に「連帯」とか「シスターフッド」とか言うのもどうかとか、わたし(60歳)の年代からすると、黙認することでわたしたちがこんな世界にしてしまったこともあり申しわけない、とか思ったりするけれど、それもちょっと違ったりするのかも、簡単に言いすぎるのもどうか、とかあれこれ考えさせられる。

さまざまな登場人物のなかで、自分と年齢の近い、50代で定年も見えていてゼロ友達ゼロ趣味、もはや仕事にもなんにもなんの情熱もないという男性編集長にすごく共感してしまった。「世間からは社会の歯車として周り続けろと要請されている気もするが、それは日本国を回すための社会のポーズでしかない。この人生は私に何も残さなかった。」と思っているところとか。単純に、時代が変わって自分の時代ではもうなくなることに対して、だれもがみな一定の年齢になると思うことなのかもしれないけど。そういう、時代の変化と自分の意識、みたいなことも考えさせられた。

あとは、やっぱり金原さん独特の文体のようなものが好きだなーとあらためて思った。
眉間に皺を寄せて読んでる途中で、思わず笑ったフレーズ。「一生ウイスキーを眺めてそのままの形で餓死して保存状態のいいミイラとして二千年後くらいに発見されて虚無という名前をつけられ博物館にでも保管されればいい」とか「言われたことはできますが言われていないことは何もしませんが何か的ないわゆるネオ無能な印象を与える。」とか。

衝撃と恐怖に打ちのめされてたけど、ラストのこの一文でちょっと救われた気がした。
「自分を責めないで塞がないで口を閉じないでもっと自分を信じて立ち上がらなくてもいいでも崩れ落ちないで」

2025年4月15日

読書状況 読み終わった [2025年4月15日]

なんとなくジェーン・オースティン原作のものは見ようと思っていて。原作はだいぶ昔に読んでいるけれどまったく覚えていなかった。いかにもオースティンな恋愛&結婚モノ。
本だとかなり分厚い内容が1時間半くらいにまとめられているけど、登場人物多くて関係がややこしくてちょっとわかりづらいところはあったかも。
でも、なかなか思いを告白できないもどかしさがさすがというか、ラストの彼が訪ねてきたのになかなか話せず、また追いかけてもなかなか会えずっていうところはほんとうにじりじりしたので、よくできているといえるかも。
こういうイギリス映画はみんなそうだけど、すごく景色がきれいで見てるだけでなごむ。(でも、あの海辺?堤防?であんなに波をかぶるのはなぜ?と思ったりした)
あと、静かめの音楽もよかった。

2025年4月11日

読書状況 読み終わった [2025年4月11日]
カテゴリ 映画

洋書ファンクラブの2024年度ベストにノミネートされていておもしろそうだったので読んでみたら、すごくおもしろかったし、すごくよかった。
人生に絶望した30代後半の女性主人公が、ずっと行きたかった豪華リゾートホテルで自殺しようと決めるんだけど、結婚式のためにそのリゾートホテルを訪れていた人たちに出会い……っていう話。自殺を考えるような心情もあればユーモアある会話やコメディタッチなシーンもあって、いわゆるユーモアとペーソスのバランスがいい感じですごく好みだった。
バチェロッテパーティとか、花火とか、プールとかヨットとかオープンカーでドライブとかショッピングとか、リハーサルディナーとかそういうのは単純に読んでいて楽しかった。

主人公フィービーは小さいころからずっと自分を抑えてきたというか、とにかく普通に、人並みに、穏便に目立たず、と思って生きてきたような人で、好きだった文学を勉強して大学の非常任講師になったものの、論文が書けなくてずっと非常任のままで待遇もよくない、っていう状況。好きで結婚した夫とは不妊治療をあきらめて夫婦仲もなんとはなしにうまくいかなくなって離婚、元夫は同僚の女性と一緒になり……っていう、なんかこういう、自分なりに努力してやってきたつもりなのに人生があまり思ったようにはならず、うまくいってないっていう鬱屈みたいなのがすごくリアルでよかった。だれにでもあるといえばあるけど、こういう行き詰まり感にすごく共感したというか。なんかこの鬱っぽさが好きだった。でも、本来のフィービーはユーモアがあって知的な人なので話が暗くなりすぎない。贅沢な結婚式を挙げにきた花嫁もただの能天気な若い娘っていうだけじゃないし、登場人物たちがみんな、よくあるタイプって感じじゃなく、それぞれの内面も描かれていて、人間には他人に見せる面も見せない面も、とにかくぞれぞれいろいろな面があるっていうことを思い出させられというか。
そして、フィービーもほかの登場人物たちも少しずつ変わっていくところがいい。自分らしく、とか、自分を解放する、自由になるっていうことがどういうことか、どうすればいいのかとかも考えさせられる。
予想どおりのハッピーエンドとかではなくて、でも希望があってリアリティのある結末になるのもよかった。

……まあ、こんな出会いとか偶然のできごとはやっぱり小説だから起きるんだよな、とか、こんな短期間でそんなに人は変われるだろうか、とか思うところもあるけれども。

フィービーが文学好きなので、ジェーン・エアとかヴァージニア・ウルフとかの話がよく出てくるのもおもしろかった。フィービーが論文にしようとしたテーマが、「なぜ文学作品の女性主人公はみなしごが多いのか」とか、ジェーン・オースティンの作品とかで「なぜみんな散歩するのか」とかっていうの、おもしろい。

2025年4月10日

読書状況 読み終わった [2025年4月10日]
カテゴリ 洋書

北村紗衣「女の子が死にたくなる前に見ておくべきサバイバルのためのガールズ洋画100選」で紹介されていて見たかったんだけど、すごくよかった。アメリカで中絶が違法だった1960年代に秘密裡に中絶手術を行っていた女性たちの地下組織の話、ときいていてもっと重くて暗い感じを想像していたんだけど、全然そんなことなく、ストーリーとしてテンポよくておもしろかったし、明るく前向きで希望があってとてもよかった。主演のエリザベス・バンクスすごくよかったし、シガニー・ウィーバー、クリス・メッシーナ、ケイト・マーラーとキャストも豪華。
主婦ジョイは夫が弁護士で裕福な生活をしているんだけど、妊娠中に心臓疾患がわかり、中絶しないと命の危険があるにもかかわらず、中絶は違法のため病院で手術を断られ、彼女は家族にも秘密で地下組織「ジェーン」に頼って手術を受ける。……見る前はここまでの話がメインなのかと思っていたら、そうではなくてこのあとからがメインになるのがいい。手術の後、ジョイは地下組織のリーダーに見込まれて最初はしかたなく、でも次第に率先して組織を手伝うようになって、しまいには自分が中絶手術をするまでにもなっていくっていう。
そもそも違法っていわれたら中絶をあきらめてしまいそうな気がするが、ジョイがあきらめなかったところがすばらしい。すごい勇気と行動力。彼女はただいい妻いい母親なだけじゃなくて、怪しい男の中絶医者の正体を暴いて手術方法を教えさせるとか、図書館にある婦人科医療の本を拝借するとか、従順なだけじゃない反抗心も頭のよさもガッツもあるところが素敵だ。もともとは大学も出ていて夫の仕事を手伝えるほど優秀なのにヒマな主婦に甘んじているっていう、女性が社会進出できない背景も描かれている。「女の子が~」にも書いてあったけど、まったく政治活動に興味もなかった人がどんなきっかけでどんなふうにして活動家になるかっていうこともわかる。

2025年4月6日

読書状況 読み終わった [2025年4月6日]
カテゴリ 映画

すごく評判になっていたのは知ってたけど、「国内ミステリジャンル」と思っていた(勝手にジャンルで枠を決めるのよくないな…)ので興味もたずにいて。でも、ふと、奥田英朗さんみたいな「昭和史ジャンル」として読むべきなのかも思って読んでみたらすごくおもしろかった! 
昭和史に残る未解決事件といわれる、1984~85年に起きた「グリコ・森永事件」をモデルにしていて、実際の事件の報道を「極力史実通りに再現した」そうで、でも、犯人や真相についてはフィクションという。
まず、読む前は、昭和の犯罪の話ってすごい陰鬱そうだなあとか思っていたんだけど、三十年後に新たな記事を書くということで新聞記者である主人公が事件を追っていく、という筋立てのせいか、泥臭さとか陰気さ重さがあまりないというか、予想よりずっと軽やかな感じがあってよかった。主人公はそもそも文化部の記者で、スクープをとりたいとかそういう必死さがなく、むしろ最初はやる気がいまひとつっぽいところも現代的だし、あと取材でイギリスに行ったり、謎が明かされる舞台もイギリスだったりするのも重苦しくならずに読めたところかなと思った。
実際の事件の再現となる部分はすごく緊迫感があってスリリングだったし、フィクションである犯人がわかっていく過程もリアルで、本当に真相はこうだったと言われても納得できそう。
ただ、そのフィクションである真相が、もうちょっと当時の日本の社会情勢とからんでいたらもっとおもしろかったような気もしなくもない。イギリスの、福祉の充実とか社会民主主義をめざしていたのに国力を失っていった状況やサッチャー政権の話も出ていたたことだし。犯人の意図とか動機が中途半端というかしょうもない感じになっているのが残念というか。もっと「永田町の闇」みたいなところまでいくのかと思ったのに。
確かに、犯罪に巻き込まれたために、子どもが犠牲になるとか、巻き込まれた人たちが社会で孤立して悲惨な目にあうとかは、本当に胸が痛んだけれど。真相として、現実にそんなことになっていないことを願うばかり……。
あと、ラストは泣けるんだけれども、結局、親子の絆みたいなものが強く出る感じなのが、単なる自分の好き嫌いなんだけど、どうなんだろうとちょっとだけ思った。

2025年3月30日

読書状況 読み終わった [2025年3月30日]

王道のロマコメ。最近ここまで王道ってめずらしいのでは、っていうくらい。予想どおり、そんなアホなっていうくらいドタバタはするけどまあまあおもしろかった。テンポがいいのがいい。
シェイクスピアの「から騒ぎ」が下敷きになっているそうで、なるほど確かにまわりの人たちのおせっかいな小芝居とかがシェイクスピアっぽい。(「から騒ぎ」がどんな話か知らずあらすじを読もうとしたけど、ごちゃごちゃしすぎててやめ。ほんとはシェイクスピア苦手かも)。
ラストのタイトルロールでもでてきた「安心ソング」ってやつ、そんなに有名な曲なのかな。(ナターシャ・ベディングフィールド「Unwritten」)

舞台になるシドニーの風景が素敵だった。

2025年3月20日

読書状況 読み終わった [2025年3月20日]
カテゴリ 映画

これ読む前に「寒い国から帰ってきたスパイ」「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を再読したんだんけど、そのおかげか、翻訳のおかげか、ル・カレ先生のわりにはわかりやすく感じたし、「寒い国~」「ティンカー~」の裏事情とか解説にもなってものすごくおもしろかった!
「寒い国~」「ティンカー~」で描かれたイギリス諜報部の作戦で犠牲になった人たちの子どもたちが、何年も経ってから諜報部を相手どって訴訟を起こそうとする、っていうストーリーも、なんか現代的でよくできてるなーとか最初に思った。今っぽいとか感じる。昔は、ほめられること、立派なことと思われていたことが、時代に合わなくなるというか、コンプライアンス的にどうなの?という感じみたいな。その訴訟のために、引退した老スパイが呼び出されて真相や裏事情を説明させられるっていう。それが「寒い国~」「ティンカー~」の解説になって楽しいっていう。
でも、わかりやすく感じたとはいえ、やっぱりすごく複雑な話だし、過去にあったことを思い出しながら語って時系列もごっちゃになりがちで、「寒い国~」「ティンカー」読みながらとっていたメモを見ながら、さらにこの作品のメモもとって考えながら読んで、勉強か!と思ったけど楽しかった。でも、すべては理解していない気はする。なにか読み逃している気が。。。
で、結局、訴訟どうなったのか、もいまひとつはっきりしなかったような気もするんだけど。訴えた人(アレック・リーマスの息子)が捕まって訴訟がなくなるような流れかも。。。

作戦のために罪のない一般人含めだれかを犠牲にするしかなかったことは悲劇だけれど、国のため大儀のためにはそうするしかなかったっていうことになる。それですべてよし、とはスマイリーは思っていなくて、そのために深く傷ついているのだけれど。
スマイリーって、スマイリー三部作とかいわれるように、中心人物・主要人物なんだけど、実際に出てくる分量はすごく少ない気が。いつも話題にはなるし、登場人物みんなに愛されているけれど、退職したとか、傷つきすぎて引きこもっているとか、どこにいるかわからない、とか言われている場面が多い。で、最後に姿をあらわして、とても重要なことを言うっていう。
今回も、多くの人を欺いて犠牲にして、なんでこんなことをしているのかっていうと、「世界平和のためだ、それがなんであれ」って言うところにぐっときた。「ヨーロッパを闇のなかから新しい理性の時代に導くことだ。その理想はまだ持っている」。
結局わたしもスマイリーを愛さずにはいられない。。。

以下ネタバレメモ




時系列順に
スパイたちの遺産より 寒い国の前日譚にあたる話
・アレックス・リーマスが情報源<チューリップ>を離脱させ、フランスまで連れてきたあと、ピーター・ギラムが<チューリップ>のイギリスへの入国のつきそいをするが、入国後<チューリップ>死亡。実は、シュタージ幹部ムントが情報漏れをおそれて<チューリップ>を殺害したのだった。その場でムントが捕まり、スマイリーがムントを英側二重スパイにリクルートした。
・スマイリーの指示で、ピーター・ギラムが西ドイツの共産党員リズ・ゴールドを誘惑、図書館員にさせて、そのあとアレックス・リーマスと知り合うようにする。リーマスは知らない。→寒い国の<ウィンドフォール>作戦

寒い国の<ウィンドフォール>作戦
実際は、ムントが二重スパイではと疑いを持った、シュタージのフィードラーを失脚させるための作戦。
ムントを失脚させる作戦と思い込まされているリーマスが、イギリスを裏切ったと見せかけてシュタージのフィードラーに協力してフィードラーにムントを告発させる。が、それはムントを陥れるフィードラーの悪だくみである、という証拠としてリーマスとリズ...

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2025年3月16日

読書状況 読み終わった [2025年3月16日]

せっかくなので映画化されたジョン・ル・カレ作品で見てなかったものを、と。読み終わった「地下道の鳩」に、この作品のイッサという登場人物のモデルとなった人の話もあったので感慨深かった。
ル・カレの特徴のように思うけど、スパイ小説ってことで想像するアクションとかの派手なシーンがなくて地味な、捜査、っていう感じがよかった。ラストが…。驚いて言葉を失うような。こんな結末?って。
ヒーローっぽさというか、大成功!!みたいなのもなくて、平和や正義をめざしていても、国家とか当局とかの権力争いだとか縄張り争いみたいなものにつぶされる、っていう現実的なところがル・カレの持ち味みたいな。スパイとか諜報活動とかいえども、かっこいいものじゃなくて、人生の悲哀を感じるというか。
フィリップ・シーモア・ホフマン、渋くてよかった。

2025年3月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月8日]
カテゴリ 映画

読もう読もうと思ってあとまわしになっていたのだけど、読んでよかった、おもしろかった。わたしはそこまでル・カレのファンでもなく、代表作は読んでいるものの、難しいと思ったし内容はほとんど覚えてないし、という感じなんだけど。
特におもしろかったのは、作品を書くためにした現地取材の話。中東、アフリカ、アジア、ロシアなど、政治情勢が不安定な土地を数々訪れてかなり危険そうな取材をたくさんしていたんだなと初めて気づいたというか認識したというか。なんか「イギリス」っていう印象が強いけれど、いわれてみれば多くの作品で世界各地が舞台になっているなと思って、「リトル・ドラマー・ガール」(中東)とか「ナイロビの蜂」(アフリカ)とかあらためて読んでみたくなった。今の世界情勢の基本がわかりそうな気もする。
あと、イギリス諜報部を裏切っていた(ソ連の二重スパイだった)キム・フィルビーに対して、イギリス諜報部に所属していたこともあるル・カレが、複雑な思いというか嫌悪感を抱いていたというのを知って、もう一度キム・フィルビーを題材にした「ティンカー、テイラー~」も読みたくなってきた。あと「スパイたちの遺産」も。あと、キム・フィルビーについて書かれたベン・マッキンタイヤー「キム・フィルビー-かくも親密な裏切り」も。
今でもこんなに興味関心をかきたてられるル・カレってやっぱり偉大なんだなと思った。

2025年3月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月8日]

こんな映画あったのなんかきいたことあるかもくらいだったんだけど、ガス・ヴァン・サント監督、ホアキン・フェニックス主演、あとジョナ・ヒル、ジャック・ブラックとキャストも豪華なので見てみた。実話だそう。
ストーリーは、1970年代、主人公はもともとアルコール依存症で、酔った知人の運転する車で事故にあって車椅子生活となるも、その後、風刺漫画家となりアルコール依存症を克服するっていう話。ストーリーから想像するような感動話でも泣ける話でもなく、主人公の風刺漫画みたいに皮肉のきいたユーモアがある感じで、じめじめしてなくてよかった。車椅子で街中を疾走するところとかすごくさわやかだったり。
ホアキンフェニックスは予想どおりよかったけど、ジョナヒルもよかった。(ジョナヒルの役、アルコール依存克服の会の主宰者だけど、なんか遺産相続したとかでやたら金持ちで、カルト教祖みたいなうさん臭い感じだったんだけどなんだったんだろうとちょっと思ったけど。)

2025年3月6日

読書状況 読み終わった [2025年3月6日]
カテゴリ 映画

とてもよかった。やっぱりサリー・ルーニー好きだと思った。
(正直、最初のほうでこんな読みにくかったっけ?とちょっと思ったのは、会話文がカギでくくらずに改行もなく続いているところ。え、だれが言ってるの?とか思ったり。あと、文章じゃなくて単語が続くとか、ちょっと詩的になったりするところ。)

ピーター(弁護士、33歳)とその弟イヴァン(チェスプレイヤー、23歳)は昔から確執があってよそよそしい関係。ピーターは、訳ありで別れた同年代の元彼女シルヴィアと、自由奔放な大学生ナオミとのあいだをいったりきたりしていてどっちと真剣につきあうか決められない状態で、イヴァンは人とコミュニケーションをとるのが苦手なんだけど、夫と別居中の十歳年上の女性マーガレットに出会って恋に落ちてつき合いはじめるっていう。恋愛物であり、きょうだい、家族の話なんだけど、とにかく人物の内面の描写がすごく細かくて繊細で深い。ピーターやイヴァンがなにを考えているのかっていうのが、(わたしの体感では)これでもかっていうくらい書かれているんだけど、それがまったく退屈とかではなくて興味深くてどんどん読んでしまう感じ。わかる、共感する、っていうところもあるし、なんだろう、自分にもこういう気持ちもあるかもしれないっていう、自分でも気づかない自分の気持ちに気づくようなところもあったり。あと、だれにでも本当にいろいろな面があって、それは見る角度によっても変わってくるっていうのがおもしろいというか。
ピーターもイヴァンも基本かなり暗くて、今までの人生のすべてを後悔していて、現状は虚しく、未来に希望はない、っていう感じなんだけど、個人的にはその陰鬱さがまた魅力的だったりもして。とくにピーターの、一見、社会的にも成功してうまくやっていっているのに、内面がズタボロっていうのが興味深かった。そして、その暗さから、ピーターもイヴァンも成長するというか、変わっていくのもよかった。
ピーターの、同時に女性ふたりを愛してつき合う関係(女性同士もお互いを知っていて文句は言ってない)も、イヴァンの年上の女性との関係も、世間とか他人にどう思われるか、っていうのがあるんだけど、世間や良識にとらわれない生き方っていうようなことも考えさせられる。
そして読後感がとてもよかった。なにか解決に至るとかではないけれど、希望があって、不安もあるけど希望があって人生とはそういうものだ、っていう感じがすごくよかった。

2025年3月5日

読書状況 読み終わった [2025年3月5日]
カテゴリ 洋書

有名だけど見たことない作品のひとつ。ガールズ・ムービーとしてもよく挙げられるので見てみなくてはと思っていて。
中年の危機らしいビルマーレイと、若いけど幸せじゃなく生き方に迷っているようなスカーレットヨハンソン、孤独で憂鬱なふたりが親しくなって心を通じ合わせるというストーリーはよかったんだけど、うーん、とにかく東京の景色が、新宿パークハイアットとか渋谷の交差点とか、夜の繁華街とか、高速道路とか、海外の人から見るとエキセントリックでおもしろいのかもしれないけど、わたしから見るとまったく魅力を感じなくてけっこうつらかった。東京ってなんかものすごく気が滅入るかも、と思ったくらい。帰りたいとか思ったくらい(どこへ)。
あと、なんか日本人の出演者がエキストラ含めて、役者なのかなんなのかわからないけど、なぜか見ててハラハラするというか、いろいろごめんなさいとか思ってしまうような。

2025年2月27日

読書状況 読み終わった [2025年2月27日]
カテゴリ 映画

「転生」がつくタイトルとかブックカバーから危惧してた、ファンタジーとかラノベとかアニメみたいな感じはまったくなくて、SFだけど読みにくさとかはなくてすごくおもしろかったし、社会のあり方や自分の意識についても考えさせられるような深さがあってすごくよかった。
現代日本が舞台だけど、実はひそかに、異世界へ転生できる、転生してきた人たちがいる、転生してきた人の意識を自分に受け入れている人がいる、っていう世界になってるって話。転生とは、パラレルワールドみたいな異世界のなにかの体に寄生して生まれ変わるみたいなことなんだけど、わたしは、はるかに高度な文明がある別の惑星に行く、とか、タイムリープして過去や未来にとぶ、みたいなイメージだった。そういうことがデータを同期するみたいにこっちとあっちで一瞬でできるっていう。物理学的な説明は頭を素通りしたけど、そうした設定に説得力があって違和感をまったく感じなかった。

そして、なんのために転生するかっていうのが、単純に今いる世界でうまくいってないとか、別人になって華やかな人生を送りたいみたいな利己的なことだけじゃなくて、今の世界や未来の世界をよりよいところにしたいっていう思いを感じるところがすごくよかったと思う。今の資本主義が行きづまったような世界を突きつけられるようなところがあって、これからどういう社会をめざせばいいのか考えさせられる。宇宙旅行のように異世界と行き来をしたり、人を送りだして高度な文明をとり入れるとか、新たに異世界をつくる、とかいったシステムを構築する話も出てくるんだけれど、希望があっていいなとも思って。たとえば、現世で迫害を受けている活動家の避難所になる場所や、惜しまれて亡くなった人が復活できる場所をつくるとか、なんだかぐっとくるものがあった。

あと、自分の意識のありかたとか、成長みたいなことも考えさせられた。転生って、意識が別の人の体に乗り移るとすると、普通の人でも思春期で意識が変わって違和感を感じるとか、人との出会いによって自分の意識が変わるとかいうことに通じるんだなと。なんというか、唯一無二の自分にこだわるのも違うし、お金や地位を得るために自分を変えていくっていうのも違うし、転生するにも、意識を変えるにも、やっぱり成長がほしい。そのためにも他人の意識に触れるってことも大事なのかも、とか。

資本主義を補うものとして宇宙宗教のつくる話で、巫女の呼びかけとしての
「あなた方を隷属させようする法と資本を拒絶せよ」とか「あなた方の内には善き魂が宿っているのだから、迷いなくそれに従え」とかが、著者の願い、著者からのメッセージにも読めた。

2025年2月23日

読書状況 読み終わった [2025年2月23日]

名作と評判が高くてファンもすごく多い印象で、一度は見てみなくてはと思っていてやっと見た。評判どおり、映像というか撮り方がすごく凝っているし、ビジュアルがすべて美しくて、ファンが多いっていうのはよくわかる。どの場面も一枚の絵になりそうで、全体的に絵本とかアニメみたいでおとぎ話っぽい雰囲気。脱獄のシーンとかおもしろかった。あとキャストがいろいろ豪華で、こんな人も出てるとは!と。 でも正直、個人的にはとくに好きとかではないかな、とくに響かないというか。おもしろくないわけじゃないけど。

2025年2月19日

読書状況 読み終わった [2025年2月19日]
カテゴリ 映画
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