安楽椅子モノの冒険譚とでも言うべきか。まるで「聖なる怠け者の冒険」のような矛盾をはらむ表現だが、実際にそうなのだから仕方がない。本のカバーには「幻想的な長編ミステリー」とあったけども。文字通り椅子に座って推理しながら、ホラー的な環境で冒険するわけで、どちらに分類しても間違いではないのだろう。
アジアの西の果ての荒野に「入った人が消える」と伝えられている豆腐型の巨大な建造物があり、主人公ら4人がその謎解きに挑むという物語。すぐ近くに野営しつつ、主人公の満は自分が消える恐怖や、閉じ込められる恐怖、亡霊に襲われる恐怖とたたかう。その設定に、むかし観た映画「CUBE」や、閉じ込められた建物からの脱出を図る米澤穂信氏の小説「インシテミル」、映画化もされた「バトルロワイヤル」を連想した。
狭いところに閉じ込められる感覚というのは怖いものだ。子供の頃、登場人物の恵弥のように押入れに閉じ込められて怖かったという人も少なくないのだろう。ただ、私の押入れへの思いは少し異なる。私は子供のころ、よく部屋の押入れに入っては日常からの脱出を試みた。子供部屋を妹と私の2人で使っていたのだが、ひょっとしたら一人きりになれる空間がほしかったのかもしれない。自分の城にワクワクしつつ、外に出たらいつもの日常がいきなり消えてやしないかと急に怖くなったりもした気がする。
大人になってから閉じ込められて辛かったのは、台風が迫ったときの通勤電車だ。ぎゅうぎゅう詰めで息が苦しくなった。思い出すだけでもいやな気分になる。この小説の中でも、嵐の中でテントに閉じ込められる場面がある。恵弥と満はそこで更に怖い目にあうのだが、その恐怖感・不快感たるやいかばかりか。
ホラー的な場面やどんでん返し、含みを持たせたエンディングと盛りだくさんで、面白かった。続編の「クレオパトラの夢」も今度読んでみようかと思う。
- 感想投稿日 : 2014年3月7日
- 読了日 : 2014年3月7日
- 本棚登録日 : 2014年3月6日
みんなの感想をみる