商業空間は何の夢を見たか 1960~2010年代の都市と建築

  • 平凡社 (2016年9月24日発売)
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 パルコ出身のアナリスト・三浦展が、カウンター・カルチャーとしてのパルコをあらためて日本の精神史に位置付け、社会学者の南後由和が、「日本的広場」論の経緯を踏まえた渋谷(パルコ)論を展開し、建築家の藤村龍至が、自身が住んでいた埼玉県所沢市の「新所沢パルコ」を出発点にして西武グループの建築史を振り返る。まるでパルコが編纂した社史のようにも見えるが、そうではない。60年代以降の日本における都市=商業史を語るとき、「コンセプトの時代」をリードしたパルコの仕事に着目するのは当然だといえる。
 80年代のセゾングループが盛況だった時代を、経済史的・文化史的に記録する文献は既に多い。この本のおもしろさは、その前史と後史、つまりパルコに流れ込んだ思想の源流と、現在の都市=商業が直面している状況を繋げて論じている点にある。
 例えば藤村龍至は、モールや駅ビル開発のような商業施設のさらなる巨大化と、それへの抵抗としての「小商い」を現代の商業トレンドとしたうえで、スモールビジネス系の新規参入を継続して担保するためには、そのような生態系の維持をコンセプトとしたグランドデサインが必要だと主張し、その手段としては公的介入も排除しない立場を採る。南後由和も、物理的な都市空間には容量の限界があるため、市場原理に任せておくと多様性が維持できないことを認め、「新しい公共」の構築を課題として掲げ、同調する。
 都市=商業のデザインを支える「コンセプト」とは、私たちの生活空間をどういうものにしたいのか、その設計思想そのものだ。60年代以降の思想史の末端に、現在の私たちの闘争局面を描き出そうとする本として、むしろ若い世代に薦めたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年11月19日
読了日 : 2016年11月12日
本棚登録日 : 2016年9月24日

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