妖精って言葉でなんとなくイメージする、あのティンカーベルみたいな「妖精」じゃなくて、イギリスの民間信仰の中に生きている精霊みたいな存在。
何百年も続く屋敷に住み着いているけど、この屋敷には普通に(?)幽霊がいたりする。
当たり前のように目に見えない存在が出てくるけど、それがまるで気負ってないというか、森の中の動物の生態を描くようにさりげない。
さらに良いのは、そういう妖精たちの生態を「わかってる」人間がちゃんといること。
たとえば、ディックが世話をしてる赤いめんどりを、新しく来た家族のニワトリたちの中に紛れ込ませたときの、農場頭の反応。
「農場に家畜が一ぴきよけいにいるときには、特別によくめんどうをみるものなんだ」「とにかくあのめんどりには、一つかみ余分に餌をやることだ。そうすりゃあ、あんたの世話するとりたちはいつも卵をよく産むようになるよ」
この農場頭のバッチフィールドや村の人たちはちゃんとわかってるの。
古いまじない言葉を知っていたり、こういう場合にはこうふるまうべき(化かされてるときには上着を裏返すなど)とか、正しいしきたりを守っている。
そこにあるのは目に見えない存在への畏怖。
この妖精たちは「こっち側でもないし、あっち側でもない」存在として説明されてて、キリスト教的な天使や聖者を恐れている。でも、邪悪な魔女も怖い。ここ、たぶんすごい大事なところだと思うんだよね。
よく知らないけど、もともとあった土着のケルト信仰と、キリスト教の関係とか。
そういう複雑な要素も薄められることなく、ちゃんと入ってるのが本物なんですよね…。
んでもって、そういうどっしりした背景があった上で繰り広げられる、魅力的な登場人物たちの物語。
これが面白いのなんの。
あちこちにハラハラドキドキがちりばめられている。
たとえば屋敷の子が魔女にさらわれて、妖精の仲間たちが一丸となって大捜索をするとき、しょぼくれた墓守じいさん妖精が本来の強大な力を取り戻して活躍するあたりとか、ストレートにわくわくさせてくれる。
序盤でほのめかされていた謎がきっちり最後に明かされて、ラストにつながっていくのも、もう完璧。
終わりも泣いちゃう…。
ディックが大好きになる二人の人間、何百年も生きるディックは、この先、二人の短い寿命がつきるのを見届けなくてはいけないことに悲しさを覚える。
そこからたどりつくひとつの答え。
20年ぶりくらいに読んだんだけど、やっぱり面白かった。
土地と固く結びついている物語。切り離したら絶対に成立しない。
なので、余談だけど映画のアリエッティが日本を舞台にしてた時点で、一番大事なものを捨てているって思ったんだよなあ。
あの原作の「床下のこびと」たちも、このディックと同じ精霊なんだよ。なので、あの土地でしか生きられないはずなの。
そこで積み重ねられてきた長い時間の中で、そこで暮らした人たちがつないできたもの。
上っ面だけなぞってたら、そういう繊細なものを失ってしまうんだよな。
なんて思った。
わたしが民俗学フェチなのでディティルたまらん、っていうのもあるかもしれんけど、まあやっぱりとにかく大好きでした。
- 感想投稿日 : 2021年12月25日
- 読了日 : 2021年12月25日
- 本棚登録日 : 2021年12月25日
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