最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

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本棚登録 : 537
レビュー : 53
制作 : Miranda July  岸本 佐知子 
nonanano15さん 小説   読み終わった 

めっちゃネタバレです。

翻訳小説ひさしぶりに読んだけど、読みやすかったなあ。岸本さんの訳、すごく身近な言葉でいい…。「肩がバキバキ」とか「ぜんぜんオッケーです」とかそういう微妙にリアルな言い回し。岸本さんのエッセイも大好きなのでたぶん自分的に肌に合ってるのかも。

んで、これ最初孤独な独身中年女性の狂気、みたいな感じで進んでいくのかとちょっと警戒した。いや杞憂でした。
クリーと同居しはじめて、傍若無人に搾取されるだけだったのが反撃をはじめて、バトルになり、だんだんその関係性が変わって来る、そのあたりでもうぐいぐい話の中に引っ張り込まれる。
主人公がややこしい妄想にとりつかれて、ファック、としか言い様のないことばっかり考えてるあたりもだいぶ突っ走ってるんだけど、でもこれやばいな、と主人公に自覚があるので、どこかちょっと明るい。

クリーが妊娠して、出産のあたりは、ふたりの祈りが本当に切実でうつくしくて胸に迫って来るものがあります。
あたらしい命はどうやったって尊くて、愛そのもののかたち。
なんかこのあたりは印象的な文章があちこちにあって、うぐぐぐ、ってなる。

受精卵は自分が精子と卵子という二つのものだったころの記憶を宿していて、なのに一つのものとして生きていかなければならない永遠の孤独を運命づけられている、なんて、ひりひりするんですよね…。

危機にある赤ん坊に、主人公が、この世界はすばらしいんだよ、だからこっちにおいで、生きろ、生きろ、と呼びかけるとこはここがクライマックスかってくらい、もうシンプルに力強くて心が揺さぶられました。

でもってクリーとシェリルの恋。最初のキスシーンはとてもやさしくてピュアなんだけど、その恋はたぶんはじめから終わりが見えてるんだよねえ。すくなくとも主人公のほうには。
あれだ、神田川の、ただあなたのやさしさがこわかった、的なやつ。現実には破綻するであろう、って予感があるからせつない。
それでも人と人との関係って、一瞬のしあわせであっても一生分の価値があったりもする、一方的なものであってもいい、どんな型にもはまらないオリジナルなものであってもいい、ってことなんかがちゃんと伝わって来るわけで。

運命の子クベルコ(であるジャック)とのやりとりが本当に救い。
スイートポテト、って呼びかけて、あ、根菜だと勘違いされたらいけないな、って思い返すのとか、とてもかわいい。

いやー最後ほんとフィリップとどうにかなるかと思ってそれはなんかいやかも…と思ってたので良かった。

そしてエピローグ。あああ、これが本当でありますように、と祈らずにはいられなかった。

なぜかすごく感想を書きたくなる小説だったなあ。
心斎橋の本屋さんで岸本さんと津村記久子さんの対談イベントがあって、行けなかったんだけどもそこでこの本取り上げられてたってんで読んでみたんですけど。
もっと早く読んでおけばよかったー。

ミランダ・ジュライも岸本さんの翻訳も(絵本以外では)初めて読んだ。
誰にでもオススメではないんだけど、自分的には妙に癖になる感じ。
なんだかとてもいとおしい、と思うような物語でした。

レビュー投稿日
2019年1月24日
読了日
2019年1月24日
本棚登録日
2019年1月24日
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