悲しみの歌 (新潮文庫)

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レビュー : 94
著者 :
ノブさん 小説   未設定

戦時中、米兵捕虜の生体実験に参加した過去をもつ中年開業医。彼を正義の名のもとに追い詰める新聞記者。彼らの話を軸にして無気力な大学生、お人よしの外国人ガストン、建前と本音の乖離をいっこうに気にしないエセ文化人の大学教授、と様々な人たちが関係を織り成す構成と内容。

読みながらふと思った。
戦犯の過去をもつ開業医を執拗に追い詰める新聞記者の姿に、いまの時代で、ネットやSNSで、当たり前のように行われていることや人たちのこと。

叩きやすい悪を「正義」の名のもとに糾弾する。世の中の問題や課題に何が善で何が悪かと、方程式のように簡単に線引きし答えを出すことができると思い込んでいる傲岸さ。正義の名のもとでなにをしても許されると勘違いした傲慢な姿勢。相手が反論できないと思えば徹底的に追いつめ責め立てる。叩きやすいから叩く。非難しやすいときだけ声高に非難する。自分は絶対に傷つくことがないと分かりきった絶対安全圏からの誹謗。その非当事者性。

タイトルの’悲しみ‘とは、こういった(僕も含めた)合理で説明できない人間のさがや意のままにならない卑しい感情に対する諦めが込めれているように思う。

レビュー投稿日
2014年7月3日
本棚登録日
2014年6月17日
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