侍女の物語 (ハヤカワepi文庫 ア 1-1)

  • 早川書房 (2001年10月24日発売)
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感想 : 190
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未来ディストピア小説。
あらすじはアメリカが舞台で、キリスト教原理主義の過激派がクーデターを起こし、聖書を言葉通りに実践する宗教独裁国家を作り上げる。彼らは白人の人口減少に危機感を抱いていた。そこで、すべての女性から財産と仕事を没収する。老女と妊娠できない女性はコロニーに送られる(具体的な描写はないが、おそらく強制収容所のような場所でそこで危険な労働をさせられる)。そして妊娠可能な女性だけを「侍女」として育成保護し、エリート層の男性宅や司令官のもとへ派遣する。妊娠させ子を産ませる。そんな侍女の一人・オブフレッドの目を通して全体主義国家を描いたSFストーリー。

最初は荒唐無稽なSFと高を括って読み進めていたが、これが現代的な内容でリアルさがあり読後は寒々とした気分になった。
スパイや反逆者を公開処刑する描写や処刑した者を見せしめのために壁に吊るす社会という設定はいささか陳腐で手垢に塗れた背景描写だ。だが細部にまで張り巡らした設定が巧くリアルである。
特に侍女の名前。どの侍女も所有格の「オブ」から始まる。オブのあとに自分が派遣された男性のファーストネームを強制的に付けられる。つまりこれで女性は本名を奪われていると同時に男性の支配下に置かれることを暗示している。自由を奪われた事実。尊厳を踏みにじる社会の現実。人の名前を書き換える。これら細部を描くことで彼女たちが生きる暗い未来世界を表現しているところに作家の卓抜な創造性を感じる。


司令官と侍女とのセックスなどは色気も官能もなく無機質な生殖行為として描写しているところも上手い。衣装や化粧がもつ根源的な魅力と誘惑に惹かれる女性の性や権力の問題やそもそも妊娠とは?などの今日的なテーマも散りばめられているので、物語としても最後まで興味深く読める。

ただ、物語の長さはこれだけ必要なのかということは問われていいと思う。
ストーリー構成はオブフレッドの生い立ちや自由だった頃の遠い過去の記憶と、侍女になるためにセンターで教育され自由を奪われたときの近い過去と、司令官宅へ派遣された現在の三構成だ。(と付録として独裁体制が終わった後の世界での講演会記録)。これらをメリハリなく物語に混ぜ込んでいるのでただただ長く感じ、終盤にやや読んでいるとダレる。ストーリー設定の奇抜さで最後まで読めるが、構成の妙を効かせて欲しかった。

読みながらイスラム国(IS)が思い浮かんだ。コーランの言葉を自分たちの支配のために利用する独善性と狂信さはこの小説に登場する国と重なる。ISが現在も行っている女性に対するレイプや集団拉致、強制結婚は小説ではなく現実だ。
「侍女の物語」は1985年に発表された。随分古い本だ。でも書かれていることが、妙にリアルに迫ってくる。未来ディストピア小説から「ディストピア」が取れて小説ですらなくなり、現実がSFを凌駕している事実にもっと戦慄すべきなのかもしれない。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2015年5月19日
本棚登録日 : 2015年5月18日

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