倫理的な戦争

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ノブさん 政治   未設定

英国トニーブレア元首相の外交を考察した本。
紛争解決のために多くの国の協力を得る努力をし、善や正義といった理念を目標に掲げて正しいことを実現しようとしたイギリスのブレア元首相。コソボ紛争からイラク戦争までのブレア外交の軌跡と、結局アメリカの単独外交に振り回され挫折する過程を丹念に辿りつつ、倫理を掲げて他国に武力介入することがいかに難しいか(でもいかに大事なことか)を浮き彫りにした内容。


ときに紛争を止めるために、大量虐殺や人権蹂躙を阻止するために倫理を掲げて武力介入しなければならない場合はある。どうしても武力を行使しなければならない危機状況が世界にはあるという冷徹な事実を認識しないといけない。倫理的目的を軍事力によって実現することは不可能ではないだろう。ブレアはこれらの問題に本気で取り組もうとした。

コソボ紛争からイラク戦争までのブレア外交は多くの国際的な倫理問題を軍事手段と非軍事手段で取り組んだ。イラク戦争は結果としてアメリカに(ネオコンに)振り回され、イギリスは粗野な暴力を行使し、その動機や理念を傷つけてしまった。ブレアの外交は自らの理念(リベラル介入主義)に忠実にあろうとするあまり、対米協調の論理に過度に依存し、意図する方針に背いて挫折してしまった。


しかし、読めば読むほどいろいろ考える。
例え、国際協調の枠組みを活用し、交戦法規を遵守し、戦後復興支援への準備といった国際的正統性と合法性を担保した上での軍事介入だとしても、果たして武力行使が紛争解決への唯一の解答なのだろうか。
コソボ紛争での人道的介入はブレア外交の成功例として参照されるが、自国兵士の犠牲を少なくするために空爆作戦を重視することは倫理的なのだろうか。
空爆作戦は誤爆などでどうしても民間人の犠牲が増える。これは倫理に反しないのだろうか。介入することで実現できる正義と、介入することで生じる不正義(戦争の犠牲者)は明確に線引き可能なのだろうか。複雑な背景をもった紛争地で誰が味方で誰が悪人なのか。善悪二元で複雑な紛争地帯を仕切ってよいのか。独裁者さえ取り除けば、その国は平和になるのか。


ブレアがやろうとしたこと、できなかったこと、それでも残る疑問や課題は、21世紀の国際社会が向き合っていかねばならない問題だろう。それを知る上で最良の本です。

レビュー投稿日
2014年11月23日
本棚登録日
2014年8月10日
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