鹿の王 3 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2017年7月25日発売)
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本棚登録 : 3790
感想 : 199
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第3巻で、事態のあらましが判明する。

キンマの犬(黒狼と山犬の半仔)を操りアカファ辺境に住む東乎瑠人を襲わせているのは、東乎瑠人に恨みを持つ火馬の民の過激派と判明する。火馬の民の過激派を殲滅し、彼らの策略を未然に防げるのか、そして黒狼熱の治療薬の開発に成功することはできるのか。物語の焦点はこの2点に絞られていく。

さて、本物語に登場する勢力はおおざっぱに5つ。すなわち征服民である東乎瑠人(王幡侯ら支配階層、そして移民政策により東乎瑠王国辺境からアカファに移り住んだ人々)、被征服民であるアカファ人(旧アカファ王国の支配階級及び庶民)、アカファの地をかつて(アカファ王に譲るまで)支配していたオタワルの貴人達、各部族単位でアカファ辺境に暮らす辺境の民(居住地を追われた火馬の民、その従僕的な沼地の民、隣国ムコニア王国兵の侵入に悩まされている山の民等)。

これらの勢力の利害が錯綜しているので、ちょっと複雑だが、物語に厚みというかリアリティーが出ていると思う。

本作でなかなかいいなと思うのは、これらの勢力それぞれに立場があり、それなりの理があり、思いがある点。邪悪な者が登場しないので安心して読める。

例えば、キンマの犬(黒狼と山犬の半仔)を使って東乎瑠人に対してテロを起こそうとしている火馬の民の過激派には、同情すべき過去(居住地を追われ生活や文化を奪われてしまったこと)があるし、東乎瑠人の征服政策・領地経営にさえも、領地を無難に治め、経済を活性化させ、隣国の侵攻から領地を守るという点で功績がある。旧アカファの支配層にも、日和見なところはあっても征服者(東乎瑠人支配階級)とアカファ人の間を取り持ち社会の安定に寄与しようとしているし、オタワルの貴人達は医術を始めとする科学技術において独自の地位を築き、尊敬を集めている。

最終巻でどのような結末を迎えるのかだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF・ファンタジー
感想投稿日 : 2020年9月16日
読了日 : 2020年9月16日
本棚登録日 : 2020年9月12日

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