火星移民たちが武装蜂起し、地球から分離独立した。それ以来両星はほぼ途絶状態だったが、関係改善の努力は細々と続けられていた。
火星独立から40年経過した2190年(火星暦40年)、両星間の関係改善に向けて地球に初めて送り込まれた留学生たち(水星団(マーキュリー)20名が、5年間の地球滞在を経て火星に戻ってきた。
地球からの資源供給を失い、生きるため新しい技術を生み出すことが必須だった火星の人々は、住居や生活物資を平等に割り当てて独占や競争を排除し、お互いの役割を決めて協力し合う理想的な社会主義的国家を建設していた。
理想社会のはずの火星だったが、システムはやがて硬直化・官僚化していった。そして、少なくとも地球での生活(功利主義的で不平等な競争社会だが、選択の自由が火星と比べてはるかに大きい地球社会の営み)を体験した若者たちにとっては、自由の少ない窮屈な社会と写ったのだった。若者たちは、住む家を選んだり変えたりできなかったり、自分の意志で自由に転職できないことに不満を募らせていった。
一方、火星を訪問した地球のドキュメンタリー映画化監督は、逆に功利主義を排除した火星社会の素晴らしさに気づいていた。
という訳で本書は、火星を舞台に「社会における自由とは何か」思い悩み迷走する若者たちの群像劇を描いている。社会システムの弊害は世代間の軋轢を生むことから、火星社会の世代交代の物語にもなっている。
いかにも中国人作家が取り上げそうなテーマ、と言えるかな。火星社会を「1984」のようなディストピアとしては描かず、理想社会の疲弊といった無難な描き方をしているのにも、それなりの理由があるんだろうな、きっと。
それにしても長かったな。一つ一つのエピソードが複数の人物の視点で細かく描かれているのでかなり冗長。しかもサクサク読める文体じゃないのでペースも上がらず、読み終えるのに1週間ものかかってしまった。これで夏季休暇が終わりとは、トホホ。
著者の好みなのか、カミュの作品(「ペスト」「反抗的人間」など)からの引用がやたら多い。意味はよく分からなかった。
- 感想投稿日 : 2022年8月21日
- 読了日 : 2022年8月21日
- 本棚登録日 : 2022年8月16日
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