とある惑星を舞台とした、思春期の少年の冒険&恋愛物語。1975年の作品。
この惑星には、寒さに異常な恐怖を覚える人々が住んでいる(会話の中にも、罵り言葉 "フリージング" が頻発する)。毎年夏には、海水が蒸発して水位が下がり、ドロドロとなった海水が北極から南極へと流れる粘流(グルーム)現象が起こる。人の他には、人の心を読み、人に寄り添い、ピンチには温かく手を差しのべる賢い野獣ロリンや、海に住む魔物アイスデビル、グルーム期の海の貪欲なお掃除屋グルームライダーなどが棲息する。二つの国(エルト、アスタ)があって、目下交戦中。
エルトの首都(アリカ)から、夏季休暇を使って両親と共に海辺の町(バラークシ)の別荘を訪れたドローヴ少年。父親(バート)は政府の役人で、バラークシの新缶詰工場(戦時の食糧供給基地)建設に関わり、とても忙しい。反抗期のドローヴ少年は、昨年夏に出会った意中の少女ブラウンアイズ(居酒屋の娘)、傲慢で小心なウルフ(役人の息子)、高慢な少女リボン(漁師の娘)とその弟のスクウィントの四人で町周辺や海を散策する日々。役人と地元民の軋轢、敵国のスパイ騒動、スクウィント失踪事件や輸送船の座礁転覆、殺人事件など事件・事故に次々遭遇し、引っ込み思案だったドローヴは一夏ですっかり逞しく成長し、また、ブラウンアイズとの恋も成就させる、という青春ストーリーなのだが…。
ラスト近くで、エゴの塊のような秘密計画が暴露され、ドローヴとブラウンアイズは引き裂かれてしまい、世界は極寒期を迎える、といういきなりSF色の濃い展開に。本作は、やはり恋愛小説というよりSF小説だな。
恋愛、冒険、ミステリー,そしてSFの要素が散りばめられていて、読み応えのある作品だった。スロースタートな序盤を乗りきれば、展開が速くなり、ドンドン引き込まれていく。好きあったブラウンアイズとの仲を引き裂かれて基地に半ば幽閉されたドローヴが、おとなしく基地に留まり続けたところがやや不満ではある。
- 感想投稿日 : 2021年8月22日
- 読了日 : 2021年8月22日
- 本棚登録日 : 2021年8月20日
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