主人公ミサエの人生がこれでもかというほど辛くて、復讐劇に転じる話だろうかと想像したのだが、まったく違った・・・。
作者のメッセージとして、住職の妻となったユリがミサエに伝える言葉。「気をつけて。あなた、自分で思っているほど、哀れでも可哀相でもないんですよ」「ミサエさんはちゃんと生きてらっしゃいましたよ。誰しもそうであるように、働いて、眠って、働いて、眠って。立派に生きてらっしゃいましたよ」人はみな、それ以上でもそれ以下でもないということだろうか。
また救われるのは後半の主人公雄介が過去の憎しみに囚われずに生きていこうとする姿。「絡み合い、枯らしあい、それでも生きる人たちを、自分も含めて初めて哀れだと思った。我々は哀れで正しい。根を下ろした場所で、定められたような生き方をして、枯れていく。それでいい。産まれたからには仕方ない。死にゆくからには仕方ない」「新しい根を張らねばならない。屍を肥としてでも、何にも絡まれず、何にも絡まず、ただ淡々と。二人の母にも、何らの過去にも捉われることなく、生き続ける。そう決めた」
人と交われば良いことばかりでなく、憎しみや悲しみも生まれる。それでも淡々と生きる。生きるところに希望が生まれる。まだ若い作者がこんなドラマを描くことができることに驚いた。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年1月21日
- 読了日 : 2023年1月19日
- 本棚登録日 : 2023年1月21日
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