不気味な描写の中に、どことなくおかしさもある怪異から一転、終盤はまさに命を懸けた鬼ごっこの様相を呈する、日本ホラー小説大賞、最後の大賞受賞作品。
ひっくり返された教室の床板、夜毎追いかけてくる巨大なムカデ、取引した人間を消すほどの力を持つ謎の存在「しげとら」
それぞれの怪異に翻弄される人々の前に現れるのは、怪異現象に詳しい美少女、祭火小夜(まつりびさや)。前半の三編ではそれぞれの視点から、怪異と小夜の活躍が描かれます。
民話や伝承にありそうな怪異を、巧く現代に落とし込んでいると思います。床下に潜むもの、巨大なムカデの気味悪さもさることながら、三話目「しげとら」の10年間に及ぶ物語は、語り手である糸川葵という少女の心理描写や追い込まれていく感じが、しっかりと描かれていて読み応えがありました。葵と小夜の関係性も雰囲気よく描かれていて、ホラーの中でも青春小説らしさを感じられる。
前半三編は怖さの中に、どことなく小噺めいたおかしさもあったりするのですが、最終話「祭りの夜」は一転して緊迫の展開。小夜に助けられた三人は、小夜からあるお願いをされます。それは兄を助けるため“魔物”を引き付ける囮として、一晩一緒に過ごしてほしいというもの。そして、魔物との命を懸けた鬼ごっこが描かれる。
魔物の描写で印象的なのは目。この目の描写が何とも不気味で想像力を掻き立てられる。そして四人に徐々に魔物が迫ってくるという緊張感が描かれる一方で、小夜の隠していた秘密も明らかになっていきます。
小説慣れしている人なら、前半の短編も最終話の展開も、先読みできるところは多いかもしれない。でも一方で物語の作りこみであったり、登場人物の描き方がとても真摯で誠実な印象を受けました。なんとなくだけど、著者の人柄が伺えるような作品。不気味さの中にある、物語自体の優しさがそう見せるのかも。
いい意味でホラー小説らしくない爽やかさが最後に残る作品でした。
第25回ホラー小説大賞〈大賞〉〈読者賞〉
- 感想投稿日 : 2021年2月2日
- 読了日 : 2021年2月2日
- 本棚登録日 : 2021年2月2日
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