宮部みゆきさんの時代小説らしく、登場人物たちの持っている空気感が素晴らしいと感じた上巻でした。
主人公である笙之介は父が賄賂騒動のため自害し、上昇志向の強い母や兄とは確執があります。ただそういった陰の部分がありつつも、長屋の人々達とのやり取りは人情味があって温かく、女性陣の可愛らしさも光る。そして何より笙之介自身の頼りなくも優しい性格も相まって、しみじみと心にしみるものがあります。
表現も美しい。特に笙之介が夢うつつの中、桜の精とも思しき美しい少女を見かけるシーンなんかは、幻想的で自分も笙之介のように違う世界に迷い込んだかのような気持ちになりました。
笙之介の父を陥れた騒動の真実を探るのが大きな話の目的ですが、その過程で笙之介は江戸の町での様々な出来事に巻き込まれます。近所の住民たちと大食い大会に見物に行ったり、子供たちの手習いの先生の代役を務めたり、そしてふとしためぐりあわせから暗号を解く羽目になったり……。
そうした事件や日常、それぞれに人の感情が息づいているようで、物語が作り物めいていない、血肉あるお話としてしっかりと自立していると思います。下巻も本当に楽しみな作品です。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
時代小説・歴史小説
- 感想投稿日 : 2021年10月12日
- 読了日 : 2021年10月12日
- 本棚登録日 : 2021年10月12日
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