倫理学 2 (岩波文庫 青 144-10)

  • 岩波書店 (2007年2月16日発売)
3.45
  • (2)
  • (2)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 76
感想 : 2
3

『倫理学』1巻や『人間の学としての倫理学』における和辻哲郎の基本構想(「人間」は人を意味すると同時に、人と人との間柄や「世間」をも意味する、云々)にいたく感銘を受けたのだったが、この巻ではちょっと内容が凡庸になり、はぐらかされた感じもあった。
「主として男女の、2人共同体」
「男女の組から子が生まれた、3人共同体」
などと、「共同体」の類型を追って行くのだが、やや常識的に過ぎると思った。その「常識」というのも「当時の日本の常識」であり、女性観・妻観などはかなり古く、いまこんなこと言ったら袋だたきに遭うだろうな、という、磯野波平的古さなのである。
おまけに、男女の2人が互いに親密に解け合っていった結果、その共同体は「私的な」領域をかたちづくることになる。夫婦とは、そのような「私的な」領域を世間(公共性)が許容したものである。そこには外部の者は参入できないが、子どもが生まれ3人共同体となると違う。ある程度この共同体は「公共性」に開かれたものと成る。というのが、和辻の分析だ。
まあ、わかるのだけれども、「私的」と「公共的」とが結局対立してしまうというのは、おや、という気がする。人間存在が人と人との「間柄」に基礎をおくものであってみれば、「私的」と「公共的」の区分は最初から取り払われてあるはずではないだろうか? 和辻は、自らが着想した出発点の革新的な部分を、じぶんで「常識」の中に埋没させてしまうのだろうか? という疑問をいだかざるをえない。
この「公共性」という(唐突に現れ、あまり詳しく説明されていない)主題を展開して今後「国家」を論じていくとなると、かなり危険な予感に襲われる。

とはいえ、経済的組織を扱った章などはとても面白かった。
人類学についてもよく調べてある。モルガンのような前時代的な、西欧至上主義的な視点から「未開社会」を鳥瞰する古典人類学でなく、「未開社会」の中に丹念にふみいり、偏見のない精密な情報を集めたマリノフスキーを参照するあたりは慧眼である。
「クラ」を分析し、近代西洋があみだした「経済学」の論理は人間の実体性をともなわない「逆倒」の論だと批判している(数学的な経済学が無用だと言っているわけではない)。このへんは痛快であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・思想
感想投稿日 : 2014年2月1日
読了日 : 2014年2月1日
本棚登録日 : 2014年2月1日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする