和辻哲郎倫理学の序説的な内容の本。
和辻のいう「倫理学」は、私たちが普通に使っている西欧由来の概念と全然ちがう。「倫」の字は「仲間」を意味し、倫理学において重視されるのは人間共同態のありようであり、単に個人主義的な道徳意識はとりあえず払拭される。
つまりカントの「わが内なる道徳律!」という感嘆とはまったく関係のない「倫理学」なのである。
さらに、この本によると「人間」という語が「ヒト」を指すというのは誤用であって、もともとは「世間」を意味するのだという。こうなってくると「人間の学としての倫理学」という書名は、まったく新たな意味をもって再浮上してくる。
このような考え方はいかにも日本的というか、東洋的だと思う。第一次大戦後の日本社会には、思想においても、こうした日本の独自性の意識が高まっていたのだろう。
私が大いに触発された木村敏氏も和辻倫理学に影響されていたのだろうか。どこかで言及されていたかもしれないが、よく覚えていない。
個人ではなく<あいだ>、<共同態>が着目される点、近代西洋の思考の枠組みの虚を突いて面白いが、よくよく考えてみると、和辻のいう<共同態>は、一歩間違えれば国家優先、国粋主義、全体主義へとなだれ込んでしまう危うさもありはしないか。
そのへんは、この本だけではよくわからない。いよいよ和辻の主著『倫理学』(文庫で全4冊)にとりかからないといけない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
哲学・思想
- 感想投稿日 : 2013年12月27日
- 読了日 : 2013年12月25日
- 本棚登録日 : 2013年12月25日
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