ナナ (新潮文庫)

  • 新潮社 (2006年12月20日発売)
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感想 : 38
5

再読。たぶん人生で3回目に読んだ。
『居酒屋』から3年後の1880年に書かれた作品だが、どうも『居酒屋』とはちょっと書き方が違うような気がする。『居酒屋』はバルザックばりの、怒濤のような物質的なディティールの書き込みが圧巻だったが、『ナナ』の方は人物が多く物語の進展もスピーディーなこともあり、より読みやすくなっている。
冒頭の、劇場でオペラ?にナナが登場し、演技も歌も下手なのに、ただ性的魅力だけで客を圧倒し、フェロモンを爆発的にパリ市民に降り注ぐ場面が素晴らしい。ただし、この最初の場面で若者2人が、劇場に来ている様々な人物を名指し寸評したりするところは、固有名詞が一気に大量に並列されるのが辟易させられるが、ここで出てくる人物たちは重要なので、初めて読む人は簡単なメモでもいいから、登場人物表を作っておいた方がいいかもしれない。
『居酒屋』は徹底してパリ下層社会を描写していたが、ジェルヴェーズの娘ナナをえがく本作には新聞記者、役者から伯爵、侯爵といった貴族連中まで出てくる。
ナナは「高級娼婦」ということだが、要するに美貌を利用して社交界に出入りする紳士たちを籠絡する。それでうまいこと金を手に入れるのだが、必ずしも金目当てというわけでもなく、貧しい時期もある。
ナナはあくどい女としては書かれていない。単に気まぐれで浮気っぽいだけで、むしろ純情なところもあり、この小説全体が、彼女の魅力的な造型によって成功している。
彼女の一族が苦汁を飲まされた「社会」に対し、ナナは社会を性的手法で攪乱し、破壊することをとおして「復讐」しているのだ、という考えが、作者自身によって漏らされている。
ただこの「復讐」は、現象としてそういう結果になっているだけであり、ナナ自身は素朴な気ままさで生きているだけだ。
最後に天然痘により、自慢の顔をただれさせて死ぬナナの描写は、かなりグロテスクで気味が悪い。
この「腐敗」は社会を震撼させる「性」そのものをかたっているのだろう。
印象深く、かつ読んでいておもしろい傑作。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2012年1月20日
読了日 : 2012年1月20日
本棚登録日 : 2012年1月20日

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