快楽主義の哲学 (文春文庫 し 21-2)

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  • 文藝春秋 (1996年2月9日発売)
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 人生に目的などはありはしない。ただひたすら快楽を求めよ、それが異端でも構わない。一匹狼を辞するな。という扇動が込もったシブサワ哲学。
 なるほどな、と思ったのが、幸福と快楽は違うということである。一見、類似しているかのような二つの言葉だが、意味が全然違う。まず、幸福とは苦痛を回避するものだ、という。確かに、幸福というイメージは平和、安泰、保険などがあり、どれも苦痛を回避している。澁澤はこれを苦痛の欠如とも言っている。
 ところが、快楽となると、これは進んで快感を求めることである、という。例えば、おいしい料理をたらふく食べたい、絶世の美女(または美男)を手に入れたい、という欲求が快楽であるという。
 なるほど、確かに幸福ばかり続くとつまらない。「日常に刺激が足りない」とよく言うが、この刺激こそが澁澤の言う快楽なのであろう。
 澁澤自身、黒魔術についてだったり、妖怪についてだったり、超常現象についてだったりと、様々な日常とはかけ離れたものを好んでいた。それは小説にも見られ、澁澤の書く小説は「衒学的だ」、「異端だ」、「役に立たない」と人々は揶揄し、非難したそうであるが・・・私は首を捻ってしまう。私には、澁澤の書くものが、人間の自然的快楽欲求に叶っているとしか思えないからである。そういうお気楽な幸せ者たちに、「非難されるのはどちらなのか」と、思わず訊きたくなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年3月18日
読了日 : 2012年3月18日
本棚登録日 : 2012年3月18日

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