ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ

  • 講談社 (2008年9月2日発売)
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再帰性、使い慣れない言葉だがここでは市場が参加者の意思に影響を与えると同時に、参加者の意思が市場に影響を与える構造のことを言っている。エクセルの循環参照を思い出せば分かりやすいかも知れない。一般的な経済学では株価を始めものの値段は合理的な価格に収斂していくはずだが、再帰性があると仮定するとどうなるか、市場参加者の思惑を含んだ合理的な価格・・・。ソロスの言い分では人間は間違えるものだし、経済学のように完全な情報があり参加者がみんな合理的なすると言う過程は無理があるという意見は理解できる。

この本が書かれたのは2008年の頭ですでにサブプライム問題は顕在化し2007年8月から金融危機が始まっていた。しかしリーマン・ショックが起こるのはこの本の発刊後の9月15日でダウ平均が史上最大の下げ幅を記録したのが9月30日、そしてその後10月13日に最大の上昇幅をつけた。そして今まさに黒田バズーカが炸裂し今日(11/3)取引時間中の市場最高値を更新した。サブプライムバブルがはじける直前の2007年10月の高値が14000ドルほど、昨年2月末にこの水準を超えついに17000を越えたのだがこれは合理的な価格なのか。金融緩和が株高をもたらすという市場参加者の思惑で買われているようにも思える。(原油価格が下がったからマネーがドルに流れたとかほかにもいろいろあるのでしょうが)

いずれ合理的な価格に収斂するとしても、参加者の多くが上がると予測している場合は実際に上がり、株を買うのがその瞬間の合理的な行動になる。ソロスの言う正のフィードバックがかかっているわけだ。そしてバブルがはじけると同様に正のフィードバックが働き下がり続ける。そこまで含めて合理的な価格に収斂するといわれてもあまり役に立ちそうな気がしない。相対性理論ではないが合理的な価格を正確に求めようとすると観測の対象期間が長くなり、ある時点にしぼると株価がーあるとすればのー理論価格から大きく離れていくという風に理解した。

実際に2007年8月以降も市場関係者は踊り続けた。「音楽がなっている間は踊り続ける」のが合理的な行動だと思われていた。例えば債券の暴落にかける高額な保険商品のCDS、バブルがはじけ始めても暴落直前までは儲かりまくる。ぎりぎりまで引き受けるというチキンレースだった。買う方も資金が続くかどうかの瀬戸際なのでこちらもハイローラーのジャックポットを待つ様なもの。

そもそもこのバブルが生まれたのはITバブル崩壊に遡る。FRBが6.5%あったFF金利(銀行間の短期金利)をわずか数ヶ月で3.5%に下げさらに911がアメリカをおそい、FRBはその後も金利を下げ続けた。2003年7月には1%まで下げインフレ率を引いた実質短期金利は31ヶ月間マイナスだった。ただになった調達コストをもとに住宅ローンは貸付基準を緩め、住宅価格は5年で50%上昇、その住宅を担保にさらに金を借り消費する。2006年の第一四半期の住宅資本の現金化は個人の可処分所得の1割に達している。そして2001年3Qに約5.5兆だった住宅ローンの債務の合計は07年3Qには11兆ドルと倍増した。

ソロスの言で気になるのは超バブル仮説、サブプライムバブルと同時にもっと時間をかけて成長してきた複雑怪奇な超バブルを想定している。市場原理主義と金融工学が様々な洗練された信用想像の手法を生み出した。市場に任せれば負のフィードバックが働き理論的な均衡点に収斂するのではなく、正のフィードバックが働き興奮と絶望を行ったり来たりする。史上最大の下げ幅と上げ幅がわずか1ヶ月以内に現れるのを収斂というのなら別だが。超バブルを支えてきたのは担保に対する貸し出しのレバレッジの拡大、規制されそうになると他国に逃げ出す金融市場のグローバル化、産油国や新興国から溢れ出すマネーなどがからみあっている。

この本の後の話ではサブプライムに端を発する世界金融危機は大恐慌を引き起こすことなく押さえ込まれたように見える。この時景気の下支えに大きく貢献したのが4兆元といわれる中国の大型景気対策だった。ソロスも不況時に信用緩和をすることに否定的なわけではないがバブルを上手く抑えたつもりが超バブルをより手強いものにする可能性を指摘している。アベノミクスと黒田バズーカという壮大な実験はこれからが本番だがバブルを作ることは出来てもそのままでは体質改善にはならない。ソロスも予想が難しいという超バブルもおそらく中国に上陸している。どうなることか、なかなかもの凄い歴史の現場にいるみたいだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2014年11月4日
読了日 : 2014年11月4日
本棚登録日 : 2014年11月4日

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