ビッグバン宇宙論 (下)

  • 新潮社 (2006年6月22日発売)
4.00
  • (68)
  • (49)
  • (63)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 518
感想 : 44
4

後半はビッグバンモデルと定常宇宙モデルの争い。科学者同士の争いは時に醜く同じ観測結果を見ても別の理論の信奉者は別の結論を導きだす。しかし上巻でビッグバンを否定したアインシュタインは下巻冒頭ではハッブルの赤方偏移のデーターを元にルメートルが正しかったとビッグバンモデルに転向した。「この項を持ち込んでからというもの、ずっとやましい気持ちでした。・・・私には、あんな醜いものが自然界に実現しているとは考えられません。」

ビッグバン仮説に対する定常宇宙論がどうやって赤方偏移、つまり遠くの宇宙は膨張し遠ざかる光を説明するのか?膨張すると空間にある物質は当然薄くなるが、もにょもにょっと新たな物質が生まれて薄まった分を埋めるので全体としては変わらないというのがそのモデルだ。エネルギー保存則は無視してしまうのね・・・E=MC^2なら物質が穴埋めした分エネルギーが減り冷えていくはずなんだが。

ビッグバンモデルへの攻撃はルメートルがカトリックの聖職者だったことにもある。ルメートル自身は科学と信仰は切り離していたが反宗教派はビッグバン仮説を創世記と結びつけて攻撃した。またこのころハッブルの観測から計算された宇宙の年齢は20億年と地球上の岩石の放射線測定から計算された34億年に満たないなどの矛盾もあった。

天文学で測定された宇宙にある部室の推定では存在比は水素1万に対し、ヘリウムが1千、酸素が2で炭素が1、その他は全て合わせて1未満である。ルメートルは原初の重い原子が次々と軽い分子に分解していくモデルを考えていたのだがそれではこの比率は説明できない。ロシアから亡命したガモフは逆に水素が核融合して重い原子を作るビッグバンモデルを考えこれで水素とヘリウムの比率は計算結果にあった。しかし炭素が作られるルートが見つからない。数学が不得手だったガモフは初期宇宙出の元素合成の問題に若いラルフ・アルファーを引き込む。ビッグバン初期のモデルを発表する際にガモフは仲の良かったハンス・ベーテを引き込むのだがこれはアルファー・ベーテ・ガモフとαβγをかけたシャレだった。このため若いアルファーは目だたなくなり後々悶着の種になる。ガモフのたちの悪いジョークはいろいろと騒動を引き起こしたがなかなかお茶目でもある。ののしり合いよりはよっぽどましだろう。この計算結果は大ニュースとなり1948年ワシントン・ポストは世界は5分で始まったと取り上げた。初期宇宙の元素合成は300秒でヘリウムを生み出した。

原初の宇宙は陽子や中性子、電子が好き勝手に飛び回っている。宇宙の温度が1兆度から百万度の間の頃陽子と中性子から重水素の原子核ができヘリウムの原子核ができた。とは言え電子はあいかわらず激しく飛び回り分子としては存在していない。いわゆるプラズマと言うもので詳しくは大槻教授に説明してもらいたいがもう少し温度が下がると電子と結びつき水素とヘリウムになる。原初の宇宙は光の海でもあったらしい。やはり「光あれ」か。光は電子と相互作用するため明るいが不透明な世界が30万年ほど続く。そして温度が3千度に冷えた頃、水素とヘリウムはプラズマから分子へと状態を変える。これが分子が誕生した瞬間だった。同時に光は分子とは干渉せず宇宙を真直ぐ進み始める。この時の光はあらゆる方向に進み、つまり地球からみればあらゆる方向からやって来ている。空間の膨張とともに今では波長1mmのマイクロ波があらゆる方角からやって来ておりこれが観測されるのは1960年代まで待つことになる。

宇宙に残されたもう一つの謎炭素原子以上の重い原子が出来ることを証明したのは皮肉なことに定常宇宙論を信奉しビッグバンに反対するイギリスのフレッド・ホイルだった。ヘリウムが二つ融合するとベリリウム8ができさらにヘリウムが融合すると炭素12の原子核ができる。しかし実際には少し質量が大きくなるためエネルギーを放出して質量差を調整しなければいけないのだが、ベリリウム8は不安定でこの質量さを調整する時間が取れないのだ。ホイルのアイデアは炭素の新しい励起状態(エネルギーが高い状態)がちょうどこのヘリウムとベリリウム8を足した重さであれば(エネルギーの高い状態は重い)その経路で炭素が出来る確率が高まると言うものだ。ホイルはサバティカルで招かれたカルテックで当時最も偉大な実験原子物理学者であったファウラーをたずね、初対面にもかかわらず上手くいけば大発見だとファウラーを口説き落とした。そして10日後ファウラーチームは新しい目的の励起状態を発見した。2億度の星の中でヘリウムから炭素が生まれる。そしてさらに重い元素も。やがて星は収縮しブラックホールとなるかあるいは超新星になって中に溜め込んだ元素を宇宙にばらまく。やがて違う所にガスが集まると重力により新たな星が生まれより重い元素が生まれていく。

ビッグバンに残された最後の課題はビッグバンの宇宙は均一で重力の偏りがないため星が生まれそうにないことだった。膨張する宇宙に少しでもゆらぎがあれば重力差が生まれ星が生まれる。最後の観測はあらゆる方向からやってくる放射線にゆらぎがないかを見つけることだった。当初1989年に衛星を使って観測を行う予定であったがチャレンジャー号の打ち上げ失敗のため計画は暗礁に乗り上げた。何とかスターウォーズ計画の標的に使われるはずだったロケットを確保したが今度は衛星を軽くしないと打ち上げ出来ない。そして1989年1月18日ついに打ち上げは成功した。そして3年に及ぶ観測の結果わずか10万分の1のゆらぎが発見された。

1本の棒の影から始まった宇宙観測の歴史はこうして宇宙がどうやって出来たかを解き明かす所まで来ている。サイモン・シンはエピローグを一つの挿話で締めくくっている。

神は天地創造以前に何をしていたのか?

神は天地創造以前に、そう言う質問をするあなたのような人間のために、
地獄を作っておられたのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 天文、海洋など
感想投稿日 : 2013年9月19日
読了日 : 2013年9月17日
本棚登録日 : 2013年9月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする