おまじない (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房 (2018年3月1日発売)
3.39
  • (78)
  • (219)
  • (355)
  • (70)
  • (10)
本棚登録 : 2955
感想 : 295
5

西さんの作品は読んだことはなかったけど、西さん本人のことはテレビでよく拝見していた。美人でおもしろくて、何よりすごくいい人感が強かった。「圧倒的光」ってイメージがついてた。
私はそういう「いい人」を見ると自分の汚ならしさと比較して落ち込むところがあるので、西さんのことはなんとなくずっと苦手だった。この人を見ると自分が惨めに思えるな、と感じていた。作品を読んだこともないのに勝手に「めちゃくちゃ爽やかな小説ばっかり書いてんだろうな」と決めつけ、勝手に距離を取っていた。
クラスの陰キャが陽キャを見て「自分とは違う世界の住人ですわ、人生楽しそう~」と鼻で笑ってるクソだせぇ姿を想像してほしい。その陰キャが私で、陽キャが西さんだ。
でも私はなんだかんだと西さんのことが気になっていた。いつも明るくて楽しそうで美しくて、私の憧れの又吉くんや文則くんとも仲が良い、羨ましいな、と思っていた。
そんなときに私は見つけてしまった。暗そうな表紙の「おまじない」という小説を。
よく知りもしないで勝手に「悩みとかなさそう~人からめちゃくちゃ愛されてそ~」と思っていた陽キャ西さんの意外な一面を見てしまった感覚に近い。
そこに惹かれてこの本を読んだ。こういうのって陰キャにありがちな展開すぎて相変わらずクソだせぇ、が、結果的に。

なぜ私は今まで西加奈子を読まないで生きてこれたのか?

というくらい、めちゃくちゃ良かった。
短編集だったのだけど、全部が全部めちゃくちゃ良かった。読みやすいし分かりやすいしめちゃくちゃおもしろい。
「孫係」では「その人の望む自分でいる努力をする」ことを肯定してくれたことが嬉しかった。
「あなたがいい子でいようとすることは、とてもえらいことなんです。それは涙ぐましい努力だし、いい子のふりではなく、本当にいい子だから出来ることなんです」という言葉に救われた。
「あねご」と「ドブロブニク」では号泣してしまった。
選ばれないとか、馬鹿にされるとか、気を遣われるとか。そういうことは日々たくさんあって、でも私は日々生きていかなくてはならなくて、誰かに優しくされると泣きたくなったりする。苦しい。

めちゃくちゃ良かった。
いやぁほんと、なんで出会わずに生きてこれたんだろうなぁ。本屋さんではあんなに西さんの作品が並んでたのにな。
でも今がその時だったんだろうなぁ。本と出会うタイミングは全部運命だもんなたぶんな。

これをキッカケに、西さんの他の作品にも触れてみたいと思う。読むのが楽しみ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月1日
読了日 : 2020年7月1日
本棚登録日 : 2020年7月1日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする