Gene Mapper -full build- (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房 (2013年4月30日発売)
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感想 : 89
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農業危機をきっかけに「蒸留作物(distilled crop)」が食糧生産の中心となった世界。
蒸留作物の遺伝子設計(gene mapping)を生業とする林田は、蒸留作物製造大手L&Bコーポレーションから受けたプロジェクトで、重大な問題が発生したことを知らされる。
交渉人の黒川、サルべージャーのキタムラと共に、林田は調査をすすめていくが…

コンタクトレンズを利用した拡張現実が普及している世界観は、伊藤計劃さんの「虐殺器官」と似かよっている。しかし、今作の主人公は軍人ではなく技術者であり、拡張現実におけるガジェットもより日常的なものとなっているので比較的簡単に作中世界に馴染むことができるのではないだろうか。
本作は、技術の暴走に対する警鐘よりも、新技術の危険性を認識しながらもその可能性を信じる技術者たちの姿勢に焦点をあてている。劇中で主人公達は、新技術のソースを全世界に公開することで劣化コピーの濫造やそれに伴う破滅を防ごうとするが、日進月歩の勢いで新技術が登場する現代において、技術を有用なものとするための方策の一つではあるだろう。核技術のような軍事技術においても有効かは疑問だが。
また、蒸留作物に反対する環境保護団体が登場するが、彼らは「命を守るために中絶を行う医者を殺す」ようなグロテスクな存在として描かれている。また彼らと結託するジャーナリストも、スクープのためならねつ造も辞さないという、近年の過熱した報道・メディアを誇張した醜悪さを見せている。
未知数の可能性を持つ技術に対し、思考停止して反対のための反対を繰り返すのではなく、その危険性を考慮したうえで技術を活用するためにいかに努力するかが重要だということではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年6月16日
読了日 : 2013年6月16日
本棚登録日 : 2013年6月16日

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