新世界より (上)

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本棚登録 : 3803
レビュー : 599
著者 :
髙梨ぽこさん  未設定  読み終わった 

人間と自然の力関係が、単純な優劣ではなく複雑に絡み合い、奇形化した世界のお話。
人間は現在の私たちよりもはるかに万能な「呪力」という魔法の力を手に入れているが、それゆえに、人間が自然界に及ぼす影響は今よりもずっと大きく、世界は何度も滅びかけている。
そのたびに歴史を隠ぺいしたり、自らに枷をかけるシステムをどうにか考案しながら、仮そめの平和を保っている。
その最もたるものが「愧死機構」と呼ばれるシステム。
呪力によって自分の同族である人間は殺せない。攻撃しようとすると大変具合が悪くなる、というもの。
臭いものにはフタをして、おびえながらものうのうと生き長らえる人間たちに、フタの中に押しとどめてきた者たちからの復讐が始まる。
この象徴的でアイロニカルな世界観だけでも圧倒されるのだが、革命を企てる獣の正体は、かつて人間だったもの(人間は人間を殺せないというシステムを打破するために遺伝子操作で獣化した)という設定や、突然変異の人間の子供(愧死機構が備わっていない、人間を殺せる人間)の正体に関する最後のたたみかけは本当にすごい。

人間を抑制するものは、愧死機構などという物理的な罰で管理されるようなものではなく、こういう物語そのものではないのかと思う。
本文中で古事記の引用が出てきたとき、「神話というのは人類の知恵で、どこかで決定的に間違ってしまった宇宙の論理を思考によって正す行為だ」というのを、本で読んだことを思い出す。
この本を読んで、人の愚かさみたいなものを考えたわけだが、それはきっと今日おいしい夕飯を食べるころには忘れてしまうのかななんて思う。出来れば覚えておこうと思うのだが、そんなに出来た頭は持っていないのである。
だけど、忘れても何度も考える、頭の片隅にふっと去来することそのものが、まずは第一歩だし、この物語がもたらした意識の些細な変化だし、その延長線上にある方法が、愧死機構に変わる何かなのだ。

レビュー投稿日
2016年1月23日
読了日
2016年1月23日
本棚登録日
2016年1月23日
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