読売新聞社は、日本人が海外での臓器売買に巻き込まれた事件を報道し、2023年新聞協会賞を受賞する。その報道がどのような取材を経て記事になったのか、新聞社内での組織・記者の行動をルポとして書籍化。

発端は海外で臓器の移植手術を受けた日本人が亡くなったという情報。この情報に接した記者たちには、様々な疑問が浮かぶ。誰が患者に手術を紹介したのか?臓器のドナーは?なぜ海外なのか?法に反する臓器売買では?

そして、海外での臓器移植をコーディネートしている日本のNPO法人の存在がクローズアップされる。

本書で中心になるのは、事件自体の真相より、記者たちのチームによる取材活動。記者の担当業務が適材適所に決められ、コンプライアンスや発表のタイミング、出張費の申請などにも注意が払われる。これぞサラリーマン記者のプライド。エリート記者が自分勝手に大活躍して、特ダネをモノにするのはドラマの中だけだ。

2025年2月4日

読書状況 読み終わった [2025年2月4日]

カネを貯めるのも結構だが、カネは使ってこそ意味を持つ。自分の人生を豊かにするために使う。しかも、できるたけ若いうちに。老いて、体力がなくなってからじゃ、金を使っては楽しめない。

つまり、貯めたカネは使い切ってから死ね、「Die With Zero」。

そんな主張をする著者の生き方は、順調に増やしてきた自らの富のピークを計算し、それ以降はその富を使い切ることに注力する。死後に残るカネを稼がず、遺産じゃなくて、贈与を送る。

実に簡単そうで有意義な人生だ。が、ホントにできるのか?

誰しも老後の不安はあるし、病気や災害のリスクに備えたい。将来の金利や年金も予定通りとは限らない。そもそも、豊かな余生を送るほどの財産を貯められる人なんて一握りだろう。

ただ、通帳残高に一喜一憂して、喜びを先送りすることを愚かだと知っておくことは人生に重要だ。

2025年1月21日

読書状況 読み終わった [2025年1月21日]
カテゴリ 教養

明治維新の英雄、西郷隆盛の弟、西郷従道の人物伝。

兄、隆盛が歴史上の人物として評価されすぎて、比較されると西郷従道の存在感は薄い。が、彼は内政や外交、軍事など明治政府の様々な役職を経験、元老にもなり、個性の強い政府メンバーの誰とでも調和し、穏やかな政界引退と死を迎えた点では、もっと評価されるべき人物だ。本人に欲があれば、首相になってもおかしくない。

が、彼はあえて首相にはならなかった気がする。

西南戦争で兄、隆盛から同調せず、政府軍に留まるよう指示されたことが彼の人生を決定づけたのだろう。目立ったことをすれば、兄を見捨てて出世した弟というレッテルを貼られることを充分に理解し、明治維新の完成という兄から託されたバトンを握り続けた。西郷隆盛にすれば、弟なら自分の意志を継いでくれるという安心感があったから、国のために捨て石になる覚悟をできたのもしれない。

2025年1月5日

読書状況 読み終わった [2025年1月5日]
カテゴリ 歴史モノ

周囲や家族からは普通の一般人として見られ、日常生活に異常性はない。仕事仲間や近隣とも調和して、トラブルもない。が、そんな性格がネットの中では一転。他者を攻撃する発言を繰り返す、自らの信条を過激な言葉でアピールする。そのような「ネット右翼」と呼ばれる人を他人事としてながめていた著者。

が、亡き父が閲覧していたネットコンテンツの多くが「ネット右翼」発信情報だったことに驚愕。そして、父の発言や行動を振り返ってみると、思い当たるふしもある。実は、父はネット右翼に染まってしまっていたのか。息子として、ルポライターの本能として、著者は生前の父の調査に乗り出す。

結論として、著者の父は社畜、男女不平等、LGBT排斥など古い価値観をひきずり、時代の流れに同調できず、バージョンアップできない自らに引け目を感じながら、もがいていたという感じ。安易にネット右翼とみなしてしまった著者の早合点。しかし、著者は時間と労力をかけて、この結論にたどり着けたから良かったものの、著者の父親世代の多くは、同じ悩みを抱え、周囲から孤立しているのかもしれない。

2025年1月5日

読書状況 読み終わった [2025年1月5日]
カテゴリ 雑学

パーフェクトデイズ

東京の古い木造アパートで一人暮らしをする平山。彼の1日は、仕事着に着替え、家を出ることではじまる。空を見上げ、自販機で買った缶コーヒーを飲み、お気に入りのカセットテープを聞きながら、車で仕事場に向かう。仕事は公衆トイレの掃除、休憩は神社境内でサンドイッチ、仕事終わりは銭湯、酒場、文庫本。そんな彼の目指すパーフェクトな1日は必ずしもパーフェクトに終わらない。予期せぬ人間が予期せぬタイミングで彼の1日に割り込んでくる。

が、彼は無理をしない。押し黙り、流れのままに身を委ね、家に帰って寝る。彼が夢で見るモノクロの木漏れ日は翌日への活力だ。

とにかく、主人公平山を演じる役所広司の演技力、存在感が半端なくすごい。ほぼ彼一人が登場する一人称視点のドラマでセリフもほとんどない。それなのに、平山はチャーミングで得体のしれない魅力があふれている。

そして、ラストは同じく名優、三浦友和との2人コント。平山も恋愛や嫉妬の感情を持っている一人の男だという点でちょっと安心。

この作品を見終えると、多くは平山みたいな生き方に憧れを持つだろう。向上心も妬みも持たず、同じ日々を繰り返す人生。といっても繰り返すだけじゃつまらない。ちょっとしたスパイスを見つけて、ニヤニヤしながらその日を振り返る。人生100年社会を生きるための、晩年のライフハック。

2024年12月30日

読書状況 観終わった [2024年12月30日]
カテゴリ 新感覚

ソウル駅そばで営業する小さなコンビニ。そのオーナーが記憶を失ったホームレス、トッコと出会い、従業員として働いてもらうところから始まる物語。

従業員や客、オーナーの家族など、コンビニに集う人々の悩み、苦しみなどが描かれる。その底にあるのは韓国社会の格差やコロナ禍による社会の激変。日本人にとっても他人事ではない問題ばかりだ。そんな社会問題が並べられる中、常に気になるのが、トッコの過去。

ラストで明らかになるトッコの正体と、その後の意外な行動に救われる。よって、めでたし めでたしという話なのだが、トッコが記憶を失う展開が急すぎて、都合良すぎる気がしないでもない。

2024年12月17日

読書状況 読み終わった [2024年12月17日]

第二次世界大戦後からの世界近代史における国家間の動きは「お金」の流れで説明、分析できる。という発想で著された歴史書。要するに人間を動かす源泉はカネであり、経済であり、富であるということ。

2016年出版のため、コロナやトランプ大統領登場、最近のウクライナ、イスラエル紛争には触れていないが、そこに達するまでの伏線を知っておくにはうってつけの本だ。

中国の経済成長は、資本主義と社会主義のいいとこ取りとアメリカとソ連との適度な距離感のおかげ。タックスヘイブンは、かつての大英帝国による負の遺産。などなど、ざっくりと歴史を知ることができる。

2024年12月6日

読書状況 読み終わった [2024年12月6日]
カテゴリ 歴史モノ

人類学者デビッド・グレーバーが発案した言葉「ブルシット・ジョブ」。本書の著者の訳では「クソどうでもいい仕事」とのこと。完了したところで、なんの価値も発生しないし、誰にも感謝されない仕事のことだ。

そんな仕事が存在するはずがない。という疑問は最もだが、世の中にはブルシット・ジョブがあふれている。例えば、多重下請けの建設現場での中抜き業者、会社のステイタス向上だけのために雇われた美人秘書、などなど。

こうしたブルシット・ジョブは、その従事者を自己否定させ、心を落ち込ませることもあれば、逆に従事者に強い自己主張をさせることもある。

やっかいなのは、後者。従事者本人はブルシット・ジョブであることをわかっているが、自らの雇用を維持するため、非ブルシットであることを主張する。

こうして、ブルシット・ジョブは増殖を続けるのであった。

2024年11月2日

読書状況 読み終わった [2024年11月2日]
カテゴリ 教養

表題作「声」に続いて、「顔」が並ぶ。どちらも独特の声、顔を持ってしまった者の悲劇を描いた犯罪小説。ただし、清張作品としては明らかに「顔」の方がデキが良いと思うのだが、なぜ「声」が表題?

そして、あとがきで作者自身が実話を基にしたと説明している「尊厳」。本当に起こった事実は、小説よりも意外で残酷で、衝撃的だ。ただ、この事実の後日談は明らかに蛇足。小説家としての想像力を発揮したつもりだろうが、コレさえなけりゃ、名作だったのに。

2024年10月28日

読書状況 読み終わった [2024年10月28日]
カテゴリ 古典的名作

ストレスの少ない楽な仕事を求める著者に職業相談員が紹介するのは、奇妙な仕事ばかり。
・小説家を見張る
・バスで流れるアナウンス原稿を作る
・菓子パッケージの記載コメントを作る
・町内を歩いてポスターを張り替える
・森林公園内の小屋での事務

コレ、どこまでが事実なんだろうか?こんな変な仕事ばかりが用意されるなんてありえない。とはいえ、ユーモアを核とした小説でもないようだし。

たやすく見える仕事も実は、たやすくない。予期せぬしがらみ、トラブルがふりかかってくる。その集大成が本作品ラストに著者が請け負った仕事。この展開はいくらなんでもフィクションだろう。

2024年10月17日

読書状況 読み終わった [2024年10月17日]
カテゴリ 新感覚

わずか3歳で中国の清朝皇帝となるが、内乱によって清朝崩壊、皇帝の座を失う。が、日本の援助により、満州国で再び皇帝に。そして、日本敗戦で満州国消失、戦争犯罪者として収監される。刑期を終え、一人の庶民として生涯を終える。

そんな山も谷もありすぎる宣統帝溥儀の人生を描いたアカデミー賞作品。1990年代の日本公開時、坂本龍一がアカデミー音楽賞を受賞したこともあり、大ブームになったことを思い出す。ただし、それなりの歴史の知識がなければ、ストーリーについて行けないかも。

歴史と周囲に翻弄された無力な男、溥儀の心情は誰とも比較できず、あまりに特殊で孤独だ。皇帝から犯罪者、そして庶民というジェットコースター人生の中で、彼が愛したのはヒトではなく、物言わぬ植物とコオロギだったというのは納得。

2024年10月17日

読書状況 観終わった [2024年10月17日]
カテゴリ 歴史モノ

現役選手時代、究極の個人主義で実績を残した野球人、落合博満。彼が監督として、集団を率い、勝利を目指すなんてこと、想像できなかった。監督としてふさわしからぬ人物だと思っていた。が、中日ドラゴンズ監督として、優勝などの実績を残し、8年もの長期にわたって勤め上げた。

本書は落合監督と監督に関わった人間を綿密に取材した、プロ野球ノンフィクション。著者の行動力、取材力は感動ものだ。

そして、落合監督はあまりにも孤高な存在。現役時代、選手にとって成績が全てでチームの勝敗は2の次と言っていた男は、監督になってもその主張を崩さなかった。選手にはひたすら個人成績を求め、監督としての自分が勝敗の責任を取る。その徹底ぶりは実在した人間とは思えない。感情のない、究極の野球脳を持ったロボットのよう。

タイトルの「嫌われた監督」通り、落合はチームの勝利と引き換えに多くから嫌われた。が、彼にとって嫌われることも監督業の一つだったのだろう。

2024年10月11日

読書状況 読み終わった [2024年10月11日]
カテゴリ スポーツ

松本清張の登場によって、推理小説は単に犯罪を描くだけではなく、犯行に至るまでのプロセス、動機が求められるようになった。と、言われる松本清張の功績をよく表しているのが、タイトル作の「殺意」。犯人が最後に語る殺人動機が秀逸。外から見るとありきたりで平穏な日常と人間関係にも、闇がある。

一方、他殺と自殺との違いはあるものの、ささいなことで自死を選んでしまう「箱根心中」。実は日常生活の中にも死は潜んでいる、という共通の作者の解釈。

生きていた人が死ぬ、という大イベントの理由がいい加減なはずじゃない。その頃の推理小説を読みながら、そんなことを考えていたのだろう。

2024年10月7日

読書状況 読み終わった [2024年10月7日]
カテゴリ 古典的名作

本屋大賞受賞など大絶賛されていた犯罪小説。警察組織を手玉に取る個性的で知的な犯人、次々と起こる爆発、過去の警察不祥事と事件とのリンクなど、盛り沢山でスピーディーな展開。が、風呂敷をひろげすぎて、たたみきれずにエンディングを迎えてしまったという印象。

物語の始まりは、スズキタゴサクと自称する酔っ払いが起こした損害事件だった。警察署内で取調中、スズキは都内で爆発が起こることを予言し、的中させる。

結局、スズキの正体をはじめ、多くの事件の詳細は明らかにならず。本小説は取調室でスズキと対峙する刑事たちとの会話劇を中心とするホラー小説。続編またはいずれ映像化される作品で完結するのだろう。

2024年9月27日

読書状況 読み終わった [2024年9月27日]
カテゴリ ミステリー

冒頭に実話にもとづくストーリーであるとの説明。どこまで事実なのか、はっきりしないが、あまりに希望のない現実を見せられる。

母親から売春で稼いでカネを貢ぐことを命じられた日常を送る香川杏(あん)。教育を受けたことも、人から助けられたこともなく、社会も知らない彼女の人生は一人の刑事と出会ったことで、一転する。理解のある大人たちの協力と自らの努力で杏は幸せをつかみかける。が、コロナ、マスコミ、母親がよってたかって彼女を元の世界に引きずり込む。

彼女の壮絶で痛ましく、短い人生を河合優実が熱演。ドラマ『不適切にもほどがある!』での演技とのギャップに驚く。その一方で刑事役の佐藤二朗は予想通りのキャラクター。

あんという少女の不幸に同情するが、それよりもコロナ禍があっという間に人の幸せを奪ってしまうことに恐怖してしまった。人間の必死の努力は天災の前ではとてつもなく無力だ。

2024年9月20日

読書状況 読み終わった [2024年9月20日]

主人公は小さな建設会社で中途採用されたサラリーマン。過去にリストラを経験した彼は、その反省から今の企業では協調を重視し、社外のつきあいも積極的にこなしている。その結果、誘われた登山の集いにハマっていく。

そんな主人公と対照的なのが同僚のメガさん。社内で誰とも交流しないが、実力と経験で着実に業務をこなす。また、趣味の登山も、わざと登山ルートを外れ、道なき道を進む「バリ山行」を一人でこなす。

仕事も登山も、自分と全く異なるスタイルのメガさんの存在に主人公は魅かれていく。

「バリ山行」描写の迫力に圧倒され、主人公ごとき初心者はついて行けないし、逆ギレするのも納得。自分にないものにあこがれたものの、慣れないことをやるもんじゃないという後悔。そして、やっぱり自分相応のことを地道に続けるべきだなという反省。主人公のいろいろな感情が交錯する終わり方が秀逸。

ネットからもリアルからも突然消えてしまったメガさん。彼は主人公の頭の中だけに存在した人物だったのかもしれない。

2024年9月18日

読書状況 読み終わった [2024年9月18日]
カテゴリ 新感覚

松本清張短編の金字塔である「張込み」を収録。何度読んでもおもしろい。犯人を捕まえる刑事が主人公でありながら、犯人探しでも犯人逮捕もメインテーマではないのは当時としては画期的だった。今で言えば、「ミステリー小説」と呼ばれる新しいタイプの犯罪推理小説の誕生。

そして、「菊枕」、「断碑」、「石の骨」はいずれも天才だが、協調性に難のある知識人の悲劇を描く。一つの知識を極めたところで、世渡り上手にはかなわない。当時の松本清張もそう思ってたのだろう。

2024年9月15日

読書状況 読み終わった [2024年9月15日]
カテゴリ 古典的名作

Gluegentスケジュとてつもなく自分に自信を持ち、周りを引っ張ってくれる優れたリーダー。彼の行為は常に正しく、素晴らしい結果をもたらしてくれていた。が、そんな彼にも失敗はある。そして、その失敗を周囲は気づかない。それどころか、明らかな失敗が失敗と認められないことも。

その彼は地球の全生物における人間だ。

本書は人間が犯した歴史上の大失敗をピックアップして、笑って反省してしまうのが目的。

自然破壊、戦争、民族消失など、人間のとんでもないヘマをながめていると、人間はとんでもなく愚かな生物だと考えてしまうが、種の絶滅に達していないところをみると、越えない一線はわきまえているのかもしれない。ーラ

2024年9月12日

読書状況 読み終わった [2024年9月12日]
カテゴリ 教養

命を救ってくれるはずの医師による医療ミスとその隠蔽。医療事故は病院という密室で行われ、知識が乏しく、家族を失って呆然とする遺族側は病院の説明に納得するしかない。

本書に取り上げられた様々な医療事故は、一応、法的には解決しているが、遺族側とすれば、それまでの調査に費やした労力に見合っているとは思えないだろう。少なくとも、遺族対病院という明らかに遺族側に不利な訴訟は何とかならないのか。遺族側の立場で病院と対等に話し合える第3者は必要だ。

それにしても、投入する薬の量を間違える、自らの経験のために難度の高い治療法を患者に勧める、といった常識のない医師を排除する方法はないのか。

2024年6月18日

読書状況 読み終わった [2024年6月18日]
カテゴリ 雑学

病院のベッドで見ず知らずの医者や看護師に囲まれ、身体中にチューブを刺されて、死ぬなんてゴメンだ。死ぬなら住み慣れた我が家の畳の上で死にたい。

そんな一人暮らしの父の願いを叶えるため、介護問題に詳しいジャーナリストである著者は、父親の在宅介護と死を看取る決心をする。医師や介護士、隣人、家族の助けを得ながら、自分の生活とを両立させての介護。そのドキュメントはドラマや小説のような美しい感動のストーリーではない。

排泄物の処理、入浴や着替えの補助、様々な介護保険申請。介護する側の介護が必要と思えるほどの、多くのミッション。在宅介護というのは、介護者の人生を犠牲にしている。

これら著者の経験は今の少子高齢社会では、人ごとじゃない。しかも、1回で終わるとも限らない。なんだか、恐ろしい予言書を読んだ気分だ。

2024年6月17日

読書状況 読み終わった [2024年6月17日]

初代ゴジラの大ヒットを受けて、急遽作られた二番煎じ作品。大ヒット作品の続編が駄作、というのはよくあることだし、ガッカリすることもなく、鑑賞できた。

前作ゴジラは東京に現れたから、次は大阪。すでにゴジラの着ぐるみはあるから、その予算を別の怪獣制作へ。ひたすら安易な設定はわかりやすくて、その潔さに感動すら覚える。

怪獣同士の対決、大阪城全壊というのは当時としては相当な見ごたえだったのでは?

2024年6月11日

読書状況 観終わった [2024年6月11日]
カテゴリ 古典的名作

池井戸潤作品お得意の銀行マン群集劇。豪華なキャスティングでお得感のあるドラマだが、各キャラクターの個性が薄く、突然、各人のエピソードがはじまり、なんの余韻もなく終わる。精神を病んでしまう銀行マンのエピソードって、必要あったの?杉本哲太も無駄遣い。

特に阿部サダヲ演じる主人公のことが最後までよくわからなかった。出世を諦めて銀行内のお笑いポジションで満足しているのか、やられたらやり返す主義なのか、銀行外の世界とつながりが深いのか。やたらミステリアスなままで、正体が明らかになることなく終了。

そもそも原作は失踪事件にはじまるミステリー小説なのに、その失踪事件を省いてしまったら、単にタイトルを借りただけの作品に過ぎない。

2024年5月9日

読書状況 観終わった [2024年5月9日]
カテゴリ リーマン小説

タイトルそのままの「千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外にいったことがないままルーマニア語の小説家になった話」だ。

正直言って、ルーマニアにあこがれがある人、ルーマニア語を学びたい人にとっては参考になる話は多いが、そうじゃない人にとって、タイトルがすべて。それなのに著者が創作したルーマニア語小説についての詳細は語られず、未だルーマニアでは本として出版されていないらしい。自称小説家でルーマニア語オタク、それ以上の自己紹介がないのがなんともうさんくさい。

まず第一に目指すべのは小説家じゃなくて、ルーマニア小説の翻訳家であり、日本での翻訳家デビューなのでは?

そんな確たる結果がないことにモヤモヤを抱えつつ、引きこもりらしい自己主張の強い表現で語られる著者の行動力、そして救いのあるネットコミュニティの万能さには共感を覚える。

2024年4月26日

読書状況 読み終わった [2024年4月26日]

応仁の乱によって、室町幕府は弱体化。足利将軍はとりあえず生き残るが、戦国武将たちは天下取りの野心むき出しで、将軍の権威は地に落ちた。とはいえ、足利将軍は戦国時代にも延々と続く。

実は足利将軍というポジションは思われているほど、「お飾り」ではなかったのでは?大名たちからそれなりの敬意を払われたのでは?本書は約100年の戦国時代に登場した9代目義尚から15代目義昭の足利将軍を総括し、その生き残りのノウハウを分析する。

戦国大名からすれば、将軍を殺すことよりも、手元においておくことの方がメリットがある。権威はとりあえず持っていても困らないからだ。

そもそも足利将軍は幕府成立直後から自前の兵力に乏しく、統治のためには他の有力大名の兵力を借りる必要があった。それゆえに大名との交渉力や敵味方を見分ける判断力、さらには情報集力など、かなりの政治センスが求められた。そんな条件を満たしたのは足利義満くらい。多くの足利将軍は大名にコマとして扱われ、京都から逃げて戻ってを繰り返す。

有力者を見極め、その人物に寄生する。それこそが将軍の生きる道。裏切り、下剋上が当たり前の中世の価値観と現在では「将軍」という考え方は異なることを理解しておけば、15代まで続いた足利一族は生き残ったこと自体が評価されるべきだし、有能だったという結論。

2024年3月24日

読書状況 読み終わった [2024年3月24日]
カテゴリ 歴史モノ
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