著者得意の貫多VS秋江シリーズの短編が3作収録。秋江に対して、ささいな不満を考えに考えて、爆発させてしまう貫多、といういつもながらの展開。西村作品を読むとき、この貫多と秋江との関係を予備知識として持っておかないと楽しめない点で、著者は新規読者を増やす意欲はないのだろう。が、今回、どの作品も爆発寸前で完結しているのが常連読者にとっても物足りない。

とはいえ、著者=貫多の親族の恥部をはっきりと描ききった点では私小説作家としてのプライドを感じる。

それにしても、作品タイトルが「瘡瘢旅行」、「廃疾かかえて」、「膿汁の流れ」。読むだけで悪臭が漂いそうな汚い言葉。

2021年3月31日

読書状況 読み終わった [2021年3月31日]
カテゴリ 新感覚

男はつらいよシリーズは全然見たことがないのだが、そのシリーズは浅草を舞台にマドンナが登場することくらいの知識さえあれば、充分楽しめる。むしろ、男はつらいよシリーズの入門編として鑑賞するのが正しいのかもしれない。

渥美清、じゃなくてフーテンの寅が亡くなって年月が経ったが、今も寅さんの妹サクラは浅草在住。息子は脱サラして作家に転職し、妻とは死別して娘と二人暮らし。今回のマドンナ的ポジションには女優業から復帰した後藤久美子。

シリーズの登場人物たちが過去のシーンとともに寅さんのことを振り返る。みんないい年齢のとり方をしている中、寅さんだけは変わらないことに渥美清の凄さを改めて思い知る。

2021年3月27日

読書状況 観終わった [2021年3月27日]
カテゴリ 古典的名作

主人公は1982年、韓国で生まれた女性キム・ジヨン。彼女が生まれた80年代はまだ女性の地位が低い時代で専業主婦が当たり前。中でも韓国は極端な男尊女卑の国で、現在でも先進国の中では最も男女賃金格差が大きい。

当時のジヨンを生んだ母親は1人目に続いて、2人目も女を生んだことで義理の両親に涙ながら謝罪する。そんな時代だった。ジヨン本人も成長して、受験や進学、就職、結婚、出産、育児を経るごとに女性であることの不都合を思い知る。

女性にとって韓国とはなんとも住みにくい国だと同情するが、隣国の日本だって実は似たようなものだ。少し前に入試の合格基準を女性だけ高くしていた大学があったし、最近では東京オリンピック協議会や夫婦別姓制度でのゴタゴタも記憶に残る。問題は男女格差とは男からの見た場合と女から見た場合でひどく違いがあることだろう。ジヨンが悩んでいることはジヨンの夫やカウンセリングの男性医師から見ると取るに足らないことなのだ。

本書を呼んで、女に生まれただけで精神的に追い込まれてしまったジヨンを将来の自分とダブらせ、人生に希望を持てなくなる女性もいるかもしれない。何より恐ろしいのは本書がベストセラーになってしまう今の社会だろう。

2021年3月14日

読書状況 読み終わった [2021年3月14日]
カテゴリ 新感覚

東日本大震災で爆発、崩壊した放射線まみれの福島原発の撤収作業に携わる作業員たちを著者は9年間にわたって取材する。

放射線を防ぐため、真夏でも防護服を着用し、暑くなる時間帯をさけて未明からの始業開始。被ばくを抑えるため、限られた時間での作業を強いられる。多重下請現場のため、責任者が不明で、賃金格差も大きい。そして、危険箇所や事故の情報を隠す政府や東京電力。作業員の労働環境は過酷すぎる。

また、作業員は常に線量計を身につけ、被ばく線量値が一定量を超えると、作業ができなくなり、次の仕事がなければ解雇だ。そのため、線量計をわざと忘れたり、鉛で覆うことで数値をごまかそうとする者もいる。

有期労働契約が問題になる社会の中で、数値で労働者を判断し、解雇されてしまう労働環境なんて許されるのか。こんなところに誰が望んで就労するのか。

「俺の存在は線量だけか」と、作業員はつぶやく。

そんな作業員の実態に加えて、増え続ける汚染水と労災申請。ホントに福島原発は片付くの?

2021年3月9日

読書状況 読み終わった [2021年3月9日]

作者の代表作、疫病神シリーズ。イケイケ極道の桑原と気の弱いカタギの二宮が一攫千金を狙う。ことの発端は警察OBたちによる診療報酬詐欺事件。

この事件にカネの匂いを嗅ぎつけた桑原は二宮にメシを食わせ、報奨金を約束し、最後には脅しつけて仲間に引きずり込む。二人が事件の核心に迫るにつれ、暴力団組織、介護施設、オレオレ詐欺と次から次へと反社的ビジネスが広がり、ついには殺人事件まで。タイトル通り「ぬかるみ」にハマった二人だが、それでもカネへの執着心は忘れない。

と、いつもどおりのストーリー展開。そして、悪徳警察官の中川、二蝶会組長の嶋田、舎弟のセツオ、オカメインコといつものキャラクターで賑わう。

桑原の金融知識、二宮の口八丁はシリーズを経るごとに磨きがかかる。

どつきどつかれの桑原・二宮コンビだが、最後に意外な友情のような片鱗を見せる。いいエンディングだ。しかし、彼らの儲けはその労働の割に合うのか?

2021年2月24日

読書状況 読み終わった [2021年2月24日]
カテゴリ アクション

なんで今さらこの漫画を、と考える日本人は置いといて、フランスではアニメ化されて大ヒットしたらしい。

その人気の波に乗り、原作者北条司の許可を得て実写化された本作品はキャラクターの性格や外見、ギャグ、ストーリーは原作通り。特に冴羽獠や海坊主などはマンガそのもの。原作を忠実に再現しようとする制作側のファン魂が凄まじい。ちなみに監督・脚本に加えて主役まで演じてるのはフィリップ・ラショーってフランス人。2枚目だが、本作品のようなバカバカしいコメディ映画一筋の人だ。

登場するクセのある脇役たちもおそらく「ラショーの気の合う仲間たち」なのだろう。熟練のチームワークを感じる。

で作品内容は原作通り、派手なガンアクションと少年誌的な下ネタの連続。ギャグについては小粒ネタばかりで大笑いするほどの質ではないが、その過剰連発とテンポで勝負。質より量のコメディ映画だ。個人的に見応えがあったのはベッドを引っ張りながらのカーアクション。原作漫画を超えたバカバカしさに感動。

原作とは違いゲイネタが入っているのと、「モッコリ」を映像化しなかったのが現代風。邦画コメディーにありがちな感動シーンを全く挿入しないのも潔い。

2021年2月19日

読書状況 観終わった [2021年2月19日]
カテゴリ アクション

アメリカ前大統領のトランプは以前、メキシコとの国境に壁を作ると宣言した。国境の壁といえばベルリンの壁であり、もはや冷戦時代の遺物というイメージ。

結局、様々な批判や問題があふれ、壁はできないまま、トランプは失職した。が、この壁発言によって、移民たちの侵入はアメリカ国内の大きな問題となっていることを世界中が知ることになる。それどころか、中南米諸国で暴力と貧困から逃れたい人々にとって、壁ができる前に行動を起こさなければと、アメリカへの移住を後押しする結果となった。なんとも皮肉だ。

著者は何度も中南米を訪れ、徒歩やヒッチハイク、列車でアメリカを目指す移民たちの行動を取材。移民たちは入国審査がずさんな国に入り、そこから陸路でアメリカやメキシコなどの豊かで平和な国を目指していた。

そして、2018年。これまで国境を越えようとする人々は少数でひっそりと移動することが当然だったのに、1000人を超える人数が集団で行進をはじめた。それは聖書に記されるエジプト脱出の民「エクソダス」に例えられる。

今後、アメリカには、より多くの移民が堂々とやってくるのだろう。おそらく壁や軍隊などのリアルな力は役に立たない。「国境のない世界」を本気で考えるときなのかもしれない。

2021年2月15日

読書状況 読み終わった [2021年2月15日]

ノーラン監督によるバットマン3部作の1番目。法も秩序もない街、ゴッサムシティの大富豪である両親を殺されたブルース・ウェインは街の浄化と悪への復讐を誓う。彼が望むのは恐怖に打ち勝つ精神と肉体、ゴッサムにわずかに残る正義の人々、そして強力で最先端の兵器。ついには正義の象徴として、闇を恐れないコウモリを象徴として、自らがバットマンとなる。

壮大な3部作の前フリである作品のため、ブルースがバットマンになるための修行やバットマングッズの紹介がストーリーの中心。それゆえに悪役側の存在感はやや薄い。日本のスター、ワタナベケンの使い方もガッカリだ。しかし、続編を見たい気にはさせてくれる。

ところで、この作品の公開は2010年前後。とてつもない格差社会の最上階の一族が主人公。それから10数年を経た今、「万引き家族」や「半地下の家族」、「ジョーカー」など、最下層から社会を眺める作品が多くなった。下の者が上にあこがれていた時代から、上を見る余裕もなく這いつくばって、底辺で我慢する時代へ。

バットマンを主人公にできた時代というのは幸せな時代だったのかもしれない。

とりあえず、パート2の鑑賞だ。

2021年2月9日

読書状況 観終わった [2021年2月9日]
カテゴリ アクション

政治に興味なく、現実から逃れるように文化建築に執着した室町幕府8代目将軍、足利義政。応仁の乱を引き起こした張本人として、評価の低い歴史上の人物だ。

確かに政治家としては欠点ばかりが目立つが、与えられる才能は人それぞれ。将軍の家に生まれたからといって、軍事や政治の才能があるとは限らない。足利義政は将軍にふさわしい人物ではなかったし、義政自身がそのことを知っていた。そして、自分には別の才能があることも知っていた。その才能は文化を創造すること。義政は応仁の乱で焼け野原となった京をながめながら、こう語る。「治国で負けて、文事で勝つ」と。

本作品は足利義政を将軍ではなく、東山文化を創り出した文化建築人として描いた歴史小説。

義政の祖父、足利義満は当時の豊かな幕府財政で豪華な金閣を建設した。一方の義政は乏しい予算の中、金閣に比較されることを承知で、素朴で質素、平凡な銀閣を建設した。しかし、これこそが日本人にとって一番合っているという確信が彼にはあった。その狙い通り、義政が発案した書院造りや四畳半の間取り、そして、侘び寂びの表現は日本人の心に今も残っている。

自分の才能を信じ、それに正直に生きることができた足利義政。歴史上、彼は将軍ではなく、秋元康や隈研吾のような文化プロデューサーとして評価すべき人間だったのだ。とはいえ、そんな人物が将軍になってしまったことは不幸としか言いようがないけど。

2021年1月31日

読書状況 読み終わった [2021年1月31日]
カテゴリ 歴史モノ

人間の感情は頭の中にある扁桃体というアーモンドの形をした器官で制御されている。この器官の成長とともに人間は多くの感情を表現できるようになる。

この物語は、そんな大切な器官が発達せず、感情を表現できない少年の青春記。彼は笑わないし、怖がらないし、好き嫌いの感情もない。家族が目の前で殺されても、何の感情を表現することもない。そんな彼を世間は「怪物」と呼んだ。

本屋大賞を受賞し、絶賛されている作品だが、それほどの感動は覚えなかった。ストーリーは障害をテーマにしたよくあるものだし、主人公が巻き込まれる事件や関わる人々が奇異すぎて、リアリティを感じない。読み手である自分のアーモンドが未発達なせいだろうか。

それにしても、感情のない世界とは現代のSNS社会に近いのかもしれない。

2021年1月29日

読書状況 読み終わった [2021年1月29日]
カテゴリ 感動モノ

2000年代後半に起きたサブプライムローンショック。いわゆるバブル崩壊。後で振り返ってみれば、当時の好調な経済は明らかにバブルであり、いずれ弾けることも予見できたはず。でも、熱狂の中にいれば、そんなことを誰も予測できなかった。

しかし、数少ない冷静な判断力を持った者たちはバブルに気づき、サブプライムローンの理不尽さに気づき、やがて資金がショートすることも気づく。彼らは、うつ病を抱えるファンド運用者だったり、1匹狼ディーラーだったり、一攫千金を投資で夢見る若者だったり。

世間から狂人、変人とののしられながらも、彼らはバブル崩壊を信じて、手持資金を空売りに投資する。そして勝利、大金を得た。頂点に登りつめた彼らだったが、見下ろす風景は職も家も金も失った人々の断末魔。大金を得た満足感は束の間だった。

本作品はサブプライムローンがいかにお粗末で矛盾を含んだ金融商品であったことと、人々がバブルに対して取るべき行動をわかりやすく教えてくれる。また、改めて投資とは限られたパイを奪い合う残酷なマネーゲームなのだと、実感。

2021年1月23日

読書状況 観終わった [2021年1月23日]
カテゴリ ビジネス

AV女優を職業として考えてみる。ハローワークには登録されることのない仕事だが、求人募集は頻繁。労働時間は1日だけの拘束。携わるスタッフは、後で警察や弁護士の世話にならないようコンプライアンスを徹底した労働環境を作り出す。

また、働く本人にとって、なにはともあれ「女優」の仕事だ。注目を浴びて、誰かを喜ばせて、ほめられる。そんな満足感、高揚感を得られるという仕事はなかなか存在しない。

そう考えると、同じ裸をさらすなら、風俗よりはマシと思える。著者曰く、意外と就職希望者は多いらしい。本書でインタビューに応じる関係者も、AV女優業について比較的ポジティブな意見が多い。

が、それはかつての話だ。就職希望者が増え、AV女優の賃金は下落。レンタルビデオ店の減少とともに活動の場も少なくなり、とりあえず事務所に名前を登録しただけの自称AV女優がほとんどらしい。当然ながら反社会的な事件に巻き込まれることもある。

ではこれから、AV女優は仕事に対してどう向き合うべきか。いつまで勤められるのか。退職後の人生設計はどうなっているのか。

結局、AV女優業はなくなることがなく、一定の需要はあるだろう。経験を退職後の人生に活かす元AV女優もいる。が、それはかなり狭き門。著者の結論としては、就職すべき職業ではない、だ。

2021年1月19日

読書状況 読み終わった [2021年1月19日]
カテゴリ 新感覚

1221年、承久の乱。後鳥羽上皇が打倒鎌倉幕府を掲げ、挙兵。しかし、結果は幕府側の圧勝。時代の空気を読めなかった敗軍の将、上皇は隠岐の島に流罪。日本の統治者は武士であることを決定づけた出来事だ。

しかし、本当に後鳥羽上皇はろくな勝算を考えず無謀な戦いを挑んだのか、世の中を再び朝廷中心にすることを目指したのか。あっさりと終わった乱の結果だけで判断せず、そこに至る過程をさかのぼってみれば、意外な真実が見えてくる。

承久の乱の数年前に3代目将軍、源実朝が暗殺される。本書はこの実朝が承久の乱の重要なキーマンだったと解説する。若くして亡くなったので歴史的評価は低いが、源実朝は後鳥羽上皇と良好な関係を築き、北条家も一目置く将来を嘱望された将軍であった。一方の後鳥羽上皇も強健な肉体と豊かな芸能センスを持つ、優れた「王」であった。おそらく実朝が長命であったならば、幕府と朝廷は良好な関係を保ち、協力して日本を統治しただろう。それを執権の北条家も望んでいたようだ。

実朝の暗殺は幕府、朝廷、上皇、北条家いずれの立場からも予期せぬ不幸な出来事だった。そこから、社会は大きく転換し、源氏将軍のいない幕府では朝廷との協力関係を維持できないと悟った後鳥羽上皇による北条家排除の行動、それが承久の乱だったのだ。決して、倒幕を目的とするものではなかった。

いつの時代も歴史を創るのは勝者の側だ。しかし、敗者の歴史に目を向けることで、見えてくる真実がある。

2021年1月11日

読書状況 読み終わった [2021年1月11日]
カテゴリ 歴史モノ

若い頃、男であることを捨てたトランスジェンダー、桜。同じく男性を捨てた青年、沙希と小さな飲み屋を営み、還暦を過ぎ、老後の不安を感じることが多くなる。そんな桜の前に現れたのは昔の「男」安藤。かつての惚れた弱みと見せつけられる彼の財力で、桜は安藤と暮らす豊かな老後を夢見る。

今の世の中、桜がカミングアウトした頃と比べてトランスジェンダーにずいぶんと寛容になった。性を変えることは当然の権利であり、恥ずべきことじゃない。むしろ、自分に正直であり、それは尊いことだと評価される。

しかし、それは所詮、きれい事。容姿は男で中身は女、容姿は女で中身は男。そんな人物に世間は奇異の目を向けるし、まともな職に就くことを許さない。結果、貯金も少ない、扶養してもらう家族もいない。トランスジェンダーの老後というのは将来の深刻な社会問題になるのかもしれない。

本作品はそんな社会問題を提起する一方、男同士のありとあらゆる肛門プレー、レイプシーンを詳細に描く。穴友達ならぬ肛門友達との見たいような見たくないような描写の連発。そして、後半からは舞台を地方へ移して大冒険活劇。

ラストは強引でやや消化不良。が、刺激的なアンダーグラウンド世界観を体験でき、ストーリーにメリハリがある他にないエンターテイメント作品だ。

2021年1月8日

読書状況 読み終わった [2021年1月8日]
カテゴリ 新感覚

全財産をつめたキャリーケースを転がして大きな駅舎にやってきた「俺」。そこは路上生活者のたまり場。俺はその中に同化しようと地面に横たわるが、居心地の悪さに不快しか感じない。そんな俺の横にいつの間にか女が添い寝をしてくる。俺はキャリーケースの代わりに女を手に入れた。

生きているのが苦痛でしょうがない。1日をやり過ごすために横になって死闘を繰り広げている。最初から全てを諦めていればどんなに良かったことか。など、路上生活者の痛々しいリアルが描かれたディストピア小説。そこには将来や夢、希望なんてものはない。

それでも、本作の主人公、名前も過去ない路上生活者の男女は、恋愛にわずかの光を見出したかったのかもしれない。が、現実はそうじゃない。2人分の重みでさらに底へ沈んでいく様はどうやっても抜け出せない絶望を鮮明にする。

「愛は地球を救う」なんて言葉が死語となった世の中。この2人のようになるかもしれないという恐怖を感じながら、誰もが生きていくのだと思うと、やりきれなくなる。

2020年12月31日

読書状況 読み終わった [2020年12月31日]
カテゴリ 恋愛モノ

幼少期より、殺しのプロフェッショナルとして育てられた男、通称「ファブル」。彼の次なる指令は1年間、一般人として普通の暮らしをすることだった。

銃などの物騒なものを捨てて、身分証明書をもらい、大阪に引っ越し、インコを飼い、仕事に就く。何もかもが新鮮で普通の暮らしに満足するファブル。しかし、周囲はそんな彼に「普通」を与えようとはしない。

ケンカと危機管理のテクニックは一流だが、日常生活は非常識。そんな行動のギャップによる笑いとアクションと周囲の個性的なキャラクターたちで引っ張る前半は楽しめるのだが、ヤマ場であるはずの後半の産廃処理工場での大立ち回りがムダに長くてしらける。

モブキャラを総動員した質より量のアクションシーンや対ファブル以外の無意味な対決は時間の無駄にしか思えない。何よりも、人を殺さないという約束なのに散々銃を撃ちまくるのがよくわからない。また、芸人ジャッカルや妹ヨウコの必要性も疑問。

原作を知っていると物足りないし、知らないと無意味なキャラに困惑する。どちらにしても不幸な作品だ。

2020年12月29日

読書状況 観終わった [2020年12月29日]
カテゴリ アクション

さすがにアカデミー作品賞はダテじゃない。張り巡らせた伏線と意表を突くラスト。韓国社会を風刺しながらも、深刻になりすぎず、笑いも忘れない。何から何までも完璧で計算された演出。見終えてからもいろんなことを考えさせてくれる。

半地下住宅。家賃は安いが、わずかな雨で水没し、暑さも悪臭もたまる劣悪な賃貸住宅。韓国の格差社会を象徴する建物だ。そこに住む職を持たない4人家族は知恵と幸運で、半地下ではない地上に住む裕福な家族に寄生することに成功する。

そして、彼らは半地下よりもさらに下の「地下」の存在を知る。

寄生される裕福な家族たちの移動は主に車。自らの足で移動することはほとんどない。その一方、半地下の家族たちは自らの足で階段や坂道をひたすら上下する。これでもかと出てくるこの対比が、強烈な印象を残す。

この格差が埋まることはこの先、考えられない。だけど、家族愛があればなんとかなる。そんなわずかな希望に少し救われた。

2020年12月25日

読書状況 観終わった [2020年12月25日]
カテゴリ 新感覚

戦後の日本が絶頂期を迎えたのは1980年代。株価も土地もうなぎのぼり、メイドインジャパンは優れた製品の代名詞となった。国民の給料は上がり続け、マイホームを持ち、世帯を持ち、老後も年金でエンジョイ。

今じゃ考えられない「昭和」という時代があった。その時代の日本を引っ張ったエリートは引き続き、平成の時代でも陣頭指揮を取り続けた。

しかし、昭和頭の彼らは変化する社会に適切な対応を取れていない。成長し続けることのない現代社会での様々な問題、非正規社員、ワーキングプア、介護、ハラスメントなどに真剣な目を向けることはない。

一例をあげれば、経団連は「終身雇用」が今の時代には合わないと否定した。が、「終身雇用」は定年まで雇用するから、その代わりに低い待遇で労働者に働いてほしいという企業側の都合によるものだ。多数が望んだのではなく、一部のエリートたちの理念である。それを臆面もなく否定する「昭和おじさん」たちを著者は批判する。

そして、令和にコロナショックが発生。この社会を揺るがす大問題にも、昭和おじさんたちの無責任さは発揮されるのか。それとも、社会経済の分岐点となるのか。

2020年12月18日

読書状況 読み終わった [2020年12月18日]
カテゴリ 教養

第2次世界大戦で、ドイツは四方八方に戦線を拡大。フランスにイギリス、アメリカと手当たりしだいに交戦、その中で最大の規模と犠牲を生み出したのが対ソ連戦だ。

フランス、イギリス相手に連戦連勝のドイツ軍はその勢いでソ連に侵攻。ソ連指導者スターリンの判断ミスもあり、ドイツ軍はモスクワの目前に迫る。が、伸び切ってしまった戦線に補給が追いつかず、過酷な冬を迎え、快調なドイツの進撃は停滞。独ソ戦は膠着状態に陥る。

本来、国同士の戦争は自国の戦力を温存しながら、相手を疲弊させ、有利な条件を勝ち取るのが目的のはず。しかし、独ソ戦は相手の戦力がゼロになるまで戦い続ける「絶滅戦争」と化した。

なぜ、独ソ戦はそうなったのか。ヒトラーとスターリンというカリスマがいたからか?ドイツ民族は優性民族であるという意識のせいか?それとも、戦争の本質は絶滅戦争なのか?

本書は、この独ソ戦の分析を通して、やられたらやり返す人類の戦争に対する意識に迫る。

2020年12月12日

読書状況 読み終わった [2020年12月12日]
カテゴリ 歴史モノ

2002年デビューの韓国現代文学作家による短編集。将来の不安はあるが、特段の解決策もなく、周囲への嫉妬も感じつつ、なんとなく日常を重ねていく中年世代を描く。

どの作品の主人公も自分の人生がずっと続く下り坂なのはわかっている。では、原因は何なのか。社会なのか、自分自身なのか、韓国という国なのか。この先、どうふるまっていけばいいのか。彼らのどうしようもなくて、やりきれない気持ちを作り出すのが、作者の言う「優しい暴力」だ。

マイホームを持ったり、子供に英才教育を受けさせたり、非正規社員から正規社員を目指したり、亀を飼ったり。もがく主人公たちに衝撃的なハッピーエンドもバッドエンドも起こらない。彼らのなんとなくな不安は解決されることなく、日常は続いていく。

所詮は隣国の話、とは感じなかった。本書ほど露骨に自国の格差社会を描写する作家が少ないだけで、日本だって似たような社会だ。「優しい暴力の時代」の次の時代はあるんだろうか。

2020年12月5日

読書状況 読み終わった [2020年12月5日]
カテゴリ 新感覚

1980年、チョン・ドゥファン大統領率いる韓国では、親アメリカ政策のもと、多くの罪なき市民が共産主義者として逮捕されていた。役人たちにとっては逮捕者の人数こそが出世の道だった。

その犠牲者の一人、ナ・ボンマンが本作の主人公。彼は孤児で満足な教育を受けられなかったが、苦労してタクシー運転手として就職し、恋人や友人もできた。ささやかな幸せにたどり着いたはずだった。が、不幸な偶然と彼の知識の無さで、彼は逮捕され、拷問にかけられる。

3部からなる長編小説だが、ナ・ボンマンが周囲の人々に次々と巻き込まれるドタバタ劇のような第1部から、第2部は一転。ナ・ボンマンへの虐待と当時の韓国社会描写がほとんどを占め、まるで別作品のようになる。作者もその点はあとがきで触れているが、第1部の喜劇ミステリー要素がなくなってしまったのは残念だ。ちなみに最後の第3部で第1部の冒頭の伏線を回収。

不条理な韓国軍事政権時代に憤りを感じるが、作者はそんな読者を落ち着かせるように「まあ、聞いてくれたまえ」とユーモアを交えて説得する。生き残ったナ・ボンマンの老年の姿に安堵し、当時の不幸な時代を冷静に振り返り、韓国の将来を考えようという狙いなのか。

2020年12月2日

読書状況 読み終わった [2020年12月2日]
カテゴリ 歴史モノ

通り魔による連続殺人事件が発生。4人死亡、1人重傷。犯人は逃走先で薬物中毒により、死体となって発見される。容疑者死亡で解決した事件だが、5人の被害者に意外な共通点があり、犯人の死体は替え玉だった。その一方、国内では幼児に正体不明の奇病が拡がっていた。

殺人事件を発端にひたすら拡がっていくストーリー展開と増殖する登場人物だが、意外と混乱することなくすんなり読める。このわかりやすさは作者がドラマ脚本家出身だからだろうか。

ただ、ミステリーとしては都合良すぎることが多いし、登場人物もやたらアウトローな奴ばかりで、現実感がない。おそらく映像化されれば、こうしたアラは気にならなくなるのだろうけど。

2020年11月28日

読書状況 読み終わった [2020年11月28日]
カテゴリ ミステリー

テレビ、雑誌、書籍で活躍する池上彰が、自身のジャーナリスト人生を振り返る。

NHKに記者として新卒入社。記者生活の途中からはニュースキャスター、子ども向けニュース番組を任される。そして、NHKを早期退職し、フリーのジャーナリストとなり、現在に至る。そんな著者がモットーとしてきたのが、情報を正しく、わかりやすく世の中に伝えること。

事件現場のテレビカメラの前でその事件を伝えること。現場記者から受け取った原稿をキャスターとして伝えること。世の中のニュースを小中学生にも理解できるように伝えること。選挙報道番組で当選議員の政治力を伝えること。

わからない人にわからないことを説明することに、多くの工夫と経験を重ね続けたことが著者のプライドだ。

そのプライドを象徴するのが、本書の最後に語られる朝日新聞連載の打切事件。この事件での著者の行動こそ彼の「伝える仕事」の総決算。よくジャーナリストが重視するのは取材だと言われるが、その取材ネタが多くの人々に届かなければ、取材しても意味がない。「伝える」ことこそが、ジャーナリストにとっての仕事の完結であり、充実なのだ。

2020年11月25日

読書状況 読み終わった [2020年11月25日]
カテゴリ エッセイ

ページの半分が漫画。短い時間で読み終えてしまう分、なかなか心に残る。

若き頃は夢を持っていたが、生活するために仕事にズルズルと時間を費やして、気づけばそれなりの年齢。仕事が楽しくないことはない。人間関係もそこそこ。だけど、将来を考えれば憂鬱になるし、今の仕事を続けることにわだかまりもある。

なんとなく仕事をしている人ならよくある悩み。自分が望んでいない仕事に対して、どんな距離で接するべきなのか。

本書が語るのは、「仕事は楽しいかね?」と問われる前に、とにかく前向きに仕事に没頭してしまえ、と。そして、仕事を通じて昨日とは違う自分になっていこう。仕事のおかげで自分を変えることができれば、それは幸せだ。

「人はしたくもない仕事をしながら、それを失うことを恐れている」というのは名言だ。

2020年11月20日

読書状況 読み終わった [2020年11月20日]
カテゴリ 教養
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