日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る (ブルーバックス)
- 講談社 (2020年9月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065209578
作品紹介・あらすじ
蒙古襲来、秀吉中国大返し、大日本帝国海軍の敗因--徹底して「数字」を読むことで、歴史にかくれた驚くべき真実が浮かび上がる!
感想・レビュー・書評
-
生物学者が恐竜絶滅の原因を生物学的な学説で説明したいと思うように、
歴史学者も歴史上の出来事を組織学や、ある人物の優れた戦略や統率力の賜物だとして説明したがる傾向がある。
900隻もの大群で九州に押し寄せた蒙古軍が九州を攻め落とせなかったのは、神風が吹いたからと言われていて漠然と日本は運がいいねと思っていた。
日本は海に囲まれており、しばしば暴風雨に見舞われるので確かに攻め入るほうにとっては厳しい条件だろう。
だが、冷静に状況を考えてみると気象条件が全てではない。
何百隻もの船が着岸し人や物の乗り降りをするのにどれだけの時間がかかるのか。
何万人もの蒙古軍が、一斉に上陸して攻めてくるなんて無理だということが分かる。
本書は、物理学、気象学、統計学を駆使して、歴史上の出来事を科学的に検証してみたものだ。
戦艦大和については、実際にどんな活躍をしたのか(別段興味もなく)知らなかったが、活躍することなく敵の攻撃であえなく沈没していた。
時代は既に空中戦に突入していたということだ。
まさに今ウクライナ戦争で、ロシア海軍の艦船が相次いで黒海で炎上・沈没しているのも同じ理由だ。
私にとっては、戦艦大和は宇宙戦艦ヤマトに姿を変え宇宙船として大活躍した姿しか記憶にない。
歴史好きの人が読むと少しくどいと感じそうですが、私のような理系人間が歴史的事件の真相に触れるにはいい本ですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
リアリティのある具体的な検証が非常に興味深いです。特に、戦艦大和は単なる無用の長物ではなく、戦後の復興や日本人の誇りとして役立った話は嬉しくなりました。
-
蒙古襲来、中国大返し、戦艦大和という三つの歴史的事件に焦点を当てて、大胆な仮説を立てた本書。
著者は船の設計者であり、歴史学者ではないので、歴史学的に見れば一笑されるものかもしれない。
(私も詳しいわけではないので、何がおかしいのか、といった指摘はできない)
だが、中国大返しに船を使ったのでは?という仮説はとても興味深い。
現代人の体力(訓練された自衛隊員)と当時の騎馬武者の体力、兵站など考えなくてはいけないことはたくさんあるが、そこで船を使えば早かったのでは、なんて今までに聞いたことがない!
蒙古襲来も、いかにも船の技術者と言った内容。
造船技術、航海技術その他従来の歴史書では捉えられてこなかった視点が面白い。
実際に模型まで作っているのだから、技術者とはすごいもんだと感嘆する。
歴史学者だけではなく、このような技術者の視点というものも必要と感じた。
大発見やパラダイムシフトは、専門家だけではなく、門外漢からだって何度も生まれているのだから。 -
サイエンスと言いますか,工学的な知見で,日本の歴史上の主な三つの出来事について書かれている本です.特に秀吉の大返しについては,本当にそれが現実的に可能であったかを,様々な観点で数値的に見積もり,真偽はともかく,興味深く読める本でした.歴史は,古文書だけを頼りにするのではなく,このような工学的知見での検証も,有用なのかも知れません.
-
ブルーバックスのラインナップの中でも異色の一冊になるのではないか。「元寇」「秀吉」「大和」の三題で、歴史上の「通説」を、エンジニアリングの眼で、ロジスティクス、プロジェクトコントロール、ストラテジーなどの観点から、物理法則に則った数値シミュレーションで検証するもの。古今の英雄譚も、人やモノを実際に動かすにあたって必要なカロリーや時間を真剣に評価してみれば、別の解釈が浮かび上がる。人文畑の研究者には一般的でない視点であろうが、教科書や人の話を鵜呑みにせず、自分の頭で可能な限り検証することの大事さを若い世代に伝えるこのうえないテキストだ。
終章を読み終わって、つくづく思い出されたのは、いろいろな危機に際して「できることは何でもやれ!」と安易に吠えることがリーダーだと勘違いしていている人が多いということ。この本に示されたような考え方の基本を身につけていない、勢いだけの人や熱意だけの人では、真の危機は乗り越えることはできないだろう。 -
猛虎襲来や秀吉の中国大返しなど、歴史的なミステリーを科学的に解析している一冊。
歴史が好きでないと、捗らないかも。
読んでいて、なるほど!と思ってしまうほど、解説は分かりやすかった。 -
数字という嘘のつけない根拠を基に、歴史上の伝説とも奇跡とも思える通説に疑問点を投げかける本作。理工系の老舗新書のブルーバックスから、何故日本史の本が?と思ってたが、読んで納得の内容。
鎌倉時代の元寇、戦国時代の秀吉の中国からの大返し、第二次世界大戦の巨大戦艦大和の存在意義についての3本立て。
どれも日本史における大きなポイントではあるが、共通点はなかなか思いつかない。
それは、著者は、長年の造船に関わったエンジニアという経歴によって明かされる。
歴史学者では無いが故、通説と言われた内容でも、実現不可能なものを客観的に疑問に感じての検証となったのだろう。なるほどなあと唸る内容。
-
これ面白い本です。歴史上の不思議な「事実」を科学の目で見ると,違うことが見えてくる…という。以前,板倉聖宣氏が『歴史の見方考え方』(仮説社,1986)という本で,人口の増減で見る新しい日本の歴史というものを提案して《日本歴史入門》という授業書を作ったことがあります。数量的にもの(歴史)を見ることで,これまでとは違ったことが見えてくるんですね。それでワクワクしたことを思い出します。
さて,本書の中身も似ています。扱っている内容は,3つしかありませんが,いずれも,具体的に数量的な基準を出してくることで,これまで一般的に言われてきた歴史的な事実?に対して「それはありえんな」「そんなばかな」「どこかに脚色があるのか」という疑念が沸いてきます。
例えば,1582年本能寺の変のあと,明智光秀の謀反を知った秀吉が,毛利と休戦を結んで「中国大返し」をして京都に戻って光秀を討ったという話。
その秀吉軍2万人が,数千頭の馬と共に,たったの数日間で京都まで行けたというのは,本当なのか。それを,2万人+馬分の食糧調達,2万人+馬分の糞尿の処理,武器や弾薬を持って歩くという強行軍,2万人分の寝る場所…などなどを考えると,とても急にこれだけ準備するのは難しい。しかも,やっとの思いで京都に着いたらすぐに光秀軍と戦う力は兵隊に残っているのか…これもまた,不思議だといいます。
文献の解釈は歴史家に任せるとして,科学的に考えると,どうなのか。そういう本なのですが,わたしは,こういう数量的な見方・考え方をしっかりしてこそ,歴史学者と言えるのではないか…と思います。古文書の解釈ばかり詳しくしても,それが事実かどうかは,分かりません。こういうことは,すでに40年近くも前に『歴史の味方考え方』に書かれています。
解釈ではなく,予想を立てて数量的に考えていく。それにより,本当の姿が見えてくるのではないでしょうか。
最後に,筆者の言葉を引用しておきます。
蒙古の撤退にしても秀吉の大返しにしても,歴史の謎とされているものは,「奇跡」とか「伝説」といった文言を纏っていることが多いようです。それが後世の人間の目までも曇らせているのかもしれません。歴史の研究の本道が文献の発掘や精査であることはもちろん承知していますが,人間が行う解釈という作業にはどうしても先入観を排除しきれないところがあります。物理や数学の観点も採りいれた研究によって、日本史の未解決問題の謎解きが進むことを願わずにいられません。(本書,227ぺ)