3.11後の放射能「安全」報道を読み解く: 社会情報リテラシー実践講座

著者 :
  • 現代企画室 (2011年7月4日発売)
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推薦理由:
原発事故後に繰り返された「直ちに健康に影響はない」という報道の根拠は何か、「暫定基準値以下なので安全」は信じられるのか、政府の「冷静な対応を求める」の意味は何なのか。本書は、様々な報道を分析し、自分で正しい判断を下す事の大切さを教えてくれる。身近な例を挙げた説明には大変説得力がある。

内容の紹介、感想など:
3月11日の大震災で東京電力福島第一原発の大事故が起こり、大量の放射性物質が放出された。政府は原子力緊急事態宣言を発令し、以降テレビや新聞などのメディアは様々な情報を伝えてきたが、その殆どは、放射能が各地で検出されているが、健康に被害を及ぼす程度ではないという「安全」を強調したものだった。本書では、メディアを読み解く情報リテラシーの専門家である著者が、原発事故後2か月余りの間にもたらされた新聞記事、政府の会見、専門家のコメントなどの様々な情報を分析し、これらの「安全」報道の問題点を明確にしている。
著者は、「安全」の社会的基準が正しく認識されないまま「暫定規制値」が安全の基準であるかのような報道をしたり、安全(根拠がある)と安心(個人的な感想)を混同したり、比較するべきではない状態を比較して安全の根拠としたり、事後に安心させるための理論でこれから対策を取るべき事前の安全を論じて危険を過小評価したりという様々な過ちを指摘して、安全報道の問題点を解説している。また、暫定規制値以下の被曝食料品が売れないのは明らかに「汚染被害」であり、それを「風評(根拠のない噂)被害」だとする報道は、生産者を苦しめ、消費者に汚染食品を強い、原発事故の責任を曖昧にするものであると批判している。
現代の情報化社会においては、錯綜する様々な情報を正しく判断する事が自らの命を守る事になる。本書は、情報リテラシーという視点から原発事故の報道を分析した、大変興味深く役に立つ本である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ジャーナリズム 070
感想投稿日 : 2011年12月5日
読了日 : 2011年12月4日
本棚登録日 : 2011年12月4日

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