ヌメロ・ゼロ

  • 河出書房新社 (2016年9月20日発売)
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感想 : 26
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ウンベルト・エーコ生誕90年のアニバーサリーということで、図書館に特設コーナーができてる。評論やエッセイではなく小説を読みたいと思ったので、これを借りてきた。

陰謀とデタラメと不誠実と根拠のない与太話とファシストつまりムッソリーニ礼賛に、権威主義の事なかれ主義と女性や性的マイノリティへの敵意と侮蔑に満ちた新設の新聞社が、本など読まない普通の人々(主に壮年以上の男性)を対象とした新聞を発行しようと準備している日々を描いた物語。

この物語の登場人物の中で唯一光る知性を感じさせる、ミソジニーへの抵抗感とセクシュアル・マイノリティへの差別は間違っていることだというまともな倫理観を持つ若い女性は、その発言のことごとくをムッソリーニを崇拝しているネオナチの陰謀論者にバカにされる。
まだ読んでいる途中だけれど、ほとんどのページが胸糞悪い。
ウンベルト・エーコは彼自身すら嫌っているはずのこんな狂った登場人物たちを、よくこんな事細かに描いたものだ。

この小説はどうやら、イタリアの戦後史を知っていることを前提に書かれているようだ。私はムッソリーニ崇拝者の言ってることを何一つ理解できなかったけど、それは彼が陰謀論者だからというだけでなく、私がイタリアの戦後史を何一つ知らないからでもあったのかもしれない。イタリアの戦後史を勉強してからこの小説を読み返してみてもおもしろそう。

メディアに対する健全な批判能力や、歴史を記憶し続ける大切さについての小説。エンタメ的な面白さは正直無いけど、また読みたいと思える作品だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年7月10日
読了日 : 2022年7月10日
本棚登録日 : 2022年7月10日

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