ハックルベリィ・フィンの冒険 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1959年3月10日発売)
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感想 : 57
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僕らは大人たちから「大人になるために」と言って、次から次へと教科書を詰め込まれ知識を注ぎこまれきた。でもこの本には教科書的な知識なんて一かけらも出てこない。

「おやじは、いつか返すという気持ちさえあれば、物を借りることは少しも悪いことではないと、いつも言っていた。未亡人はそれは盗みを体裁よく言ったにすぎない、きちんとした男の子のすべきことでないと言った。」ハックルベリイ・フィン(ハック)は、暴力親父と育ての親の未亡人との両極端の教えの間で悩む。
しかし元黒人奴隷で、訳あってハックと川下りの旅をともにするジムは、こう言った。「未亡人の言うことにも正しい点があるし、お父っつぁんの言うことにも正しい点がある。われわれのとるべき最善の方法は、いろいろあるものの中から二つ三つ選び出し、これだけは今後借りない、と言うことだ。そのほかのものは借りても差し支えなかろうと思う。」

読者がハックに引き込まれるのは、教科書やマニュアルといったものをハックがはなっから放り投げてるところにあると思う。筏(いかだ)の上で暴風雨に巻き込まれたり、銃弾がすぐ横をかすめ飛ぶような状況では、教科書なんてクソの役にも立たない。
ハックのその場のひらめきが(たいていは口から出まかせなんだけど)、どんどん膨らんで、周りの人を巻き込む数々のエピソードは、例えば、ハックが聡明な女の子に出会い、同情や憐れみが、次第に思慕というか恋愛のような感情に変化し、うまく心の中で整理できないながらも、彼女のことで頭がいっぱいになって走り回ったように、どんな教科書よりも的確に“人生とは何か”“生きるうえでどんな課題が迫ってくるか”を私たちに教えてくれる。

一番好きなエピソードは、ハックが川に流されてジムとはぐれ、やっとの思いで追いついたらジムが眠っていたので、少しからかってやれと企む話。
しかし実はジムは、はぐれたハックを心配のあまり泣き疲れて眠っていたのだった。ジムに「ごみくずたあ、友達の顔に泥を塗って恥ずかしい思いをさせるような人間のことさ」と言われ、「謝りに行く決心がつくまで十五分かかったが、しかし、僕はやってのけた。そして、後になっても謝ったことを後悔しなかった。それ以来、ジムに性の悪い悪戯をしないし、あの時だってジムにあんな思いをさせるとわかっていたらしなかったであろう。」とハックは思った。
誰もが経験する、楽しさと苦しさが複雑に絡まったような人生を、ハックは種明かしのようにさらっとほどき、私たちに見せてくれる。

この本を電車で読んでいて、何回降りるのを忘れて乗り過ごしたか。それほど夢中になれた。
(2011/9/25)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年11月8日
読了日 : 2011年9月25日
本棚登録日 : 2015年11月8日

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