海と毒薬 (新潮文庫)

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本棚登録 : 6792
レビュー : 791
著者 :
oseikromさん  未設定  読み終わった 

なぜ、断れなかったのか。著者はすべての読者に問いかけている。

小説は何気ない日常から始まる。ふつうのまちでの、何気ない一日。我々読者が住んでいる世界と何ら変わらない。しかしこの日常は紙一重で地獄のような戦争体験とつながっている。まちの住人は戦争体験者で、人を殺した経験があるという。そして勝呂医師の過去。地獄絵図と日常は対比されながら、一方でつながり合っている。病院での登場人物もいたってふつうの感覚の持ち主である。僕は戸田の少年期の回想に共感してしまった部分もあった。(程度差はあれ、共感した人は多いのではないか)この残酷な事件を、我々読者の感覚から切り離さず、「同じ立場だったら」と考えさせる展開になっている。そして断れなかった理由を、著者は「運命」、人間の意思を超えて人間を飲み込もうとするどす黒い流れ、と呼んでいる。
ひとつは、戦時中の異常さは抜きにはできないということだ。まわりでは無数の人間が何の意味もなく死んでいく。このようななかで、多くの人の間で無気力さ、虚脱感、自分の人生を大事にできない感覚、が共有されていたのではないか。これが流れをつくっていたのではないか。しかし「戦争」という日常の対立概念をもちだして彼らの心理を説明することは著者の本意ではない。戦争下ではなくとも、このような悪い流れが存在することも、ある。

レビュー投稿日
2016年6月9日
読了日
2016年6月9日
本棚登録日
2016年6月9日
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