この本の面白さは、
①「蟻鱒鳶ル」というプロジェクトを通して、今まで知らなかったコンクリートの話や建築の裏話を知れること。
②『岡啓輔さんが、いかにして「蟻鱒鳶ル」を建てるに至ったか』のストーリーを通して、現在の建築業界の問題点や向かうべき未来についての一つの考え方を知れること。
以上の2つにあると感じました。
①に関しては、建物の作り方やそもそもコンクリートがどういう物質なのかなど、知らないことだらけだったので、非常に興味深く読むことができました。
一方で少し引っかかったのは、読み進めていくにつれて、「蟻鱒鳶ルがどれだけ素晴らしいか、正しいことをやっているか」を、ただ躍起になって証明しようとしているだけのように感じられてしまったことです。
特に前半は、岡さんのことも建築現場の現状のこともよく知らないままに「蟻鱒鳶ル」の素晴らしさが語られていくので、なんだか結論ありきの文章を読まされているようで、違和感を感じました。
後半になるにつれて、岡さん自身や現場の状況が説明されていき、「蟻鱒鳶ル」が何を象徴しているのかを理解できるようになり、前半の疑問はだいぶ解消されますが・・・違和感を持ったまま後半まで読み進めるのは、かなりモヤモヤした読書体験でした。
②で描かれる岡さんの考え方に関しては、共感できる部分もあったのですが、理解しづらい部分も多くありました。
なぜ理解しにくいかと言うと、ひとえに「語り方」というか、「文章の書き方」のような気もします。
例えば、前半に出てくるローマのパンテノンのくだりなど、論理が飛躍してるにも関わらず、自分で勝手に納得して決めつけているような文章がチラホラあるため、共感しづらかったし、考え方が狭い人間のように感じられるので、もったいない部分だと思いました。
同様に、紋切り型の「スーツ姿の会社員」批判とかには、辟易しました。スーツの人間を皆一様に「生気がない」と評するその姿勢こそが、現実の人間をきちんと見ようとしない、一人一人の思いとか独自性を理解しない狭い了見だと感じました。
また、さんざん「建築オタク」だという割に、「海外旅行には興味なかった」という描写が出てきたりしました。建築オタクなら、海外の建築をその目で見たいと感じるのが普通なんじゃないか、と思います。
同様に、「影響を受けやすいから勧められた建築を見ないようにしていた」という描写にも同じことを感じました。
書いてあることと実際の行動が一致していないので、「岡さんという人間が信頼できる人なのかよくわからない」という思いを抱き、そのまま本が進行していくため、やっぱりモヤモヤしながら読み進めていくことになりました。
もう少し、住宅メーカーで働いていた頃や高山建築学校で学んでいた頃に「具体的にどう葛藤し、その都度どう乗り越えていったのか」というエピソードがあれば、岡さんがどんな人間なのか理解することができ、共感しやすくなったのではないかと思います。
そんなこんなで後半まで読み進めたところで、にわかに「本としてグッと面白くなった」と感じられようになりました。それは、「建築は消耗品なのか?」という問題提起の章になってからです。
岡さんが抱く問題意識の根幹が描かれていて共感できるし、問題の根本にある原因にも触れていて、納得感もありました。建築現場での現実の話も、そこでの経験が岡さんの理念につながっていることが分かりやすく感じられ、前半に語られた「蟻鱒鳶ル」の存在意義を理解しやすくなりました。ここに来てようやく、モヤモヤした気持ちが晴れていくのが感じられました。
文章自体も、後半になるに従って、素直な文章になっていくというか、自分を大きく見せようという意識がなくなってるように感じられ、どんどん面白くなっていきました。
ただ、最後の最後、幼少期の「バベルの塔」の思い出のところで、また共感しづらいエピソードが出てきてしまったのが残念でした。そのエピソードを、本の中の前半で取り上げていれば、「一つの道筋として繋がった」という感動が生まれたかもしれませんが、唐突に出てくるだけなので、後出しジャンケン感が否めません。紋切り型の会社員批判が最後にまた出てくるのも残念。
「最後の締まりはちょっと悪いな」と思いつつ、全体として語られていること自体はとても面白いです。文章の書き方や、本自体の構成をもう少しブラッシュアップすることで、より広く深く理解される作品になったのではないかと思います。
- 感想投稿日 : 2018年9月26日
- 読了日 : 2018年9月26日
- 本棚登録日 : 2018年9月26日
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