安倍政権になり、近隣諸国との歴史認識の違いをネタにしたニュースが増えている。本書は1993年に出版されたものであるが、人文・社会科学の分野で高い学識を持たれてい小室氏が「天皇」をどのように捉えているのか興味がわいて読んでみた。
本書は全8章からなるが、最初の6章では天皇を理解する伏線としてユダヤ教、キリスト教、仏教について詳細に特徴が論じられており、天皇の話は出てこない。残りの2章でようやく天皇について論旨の展開が始まるが、幕末に「崎門の学」に端を発する尊王思想が高まったところで本書は終わる。
近代以降の天皇に関する著者の見解を期待して本書を読んだ人は他にもいると思うが、おそらく自分と同じように「肩すかし」をくらったように感じたのではないだろうか。
実は本書の序文に『(皇太子殿下の)御成婚記念にとしたい希望により急いだため、崎門の学の展開過程についての「詳論」は次回にまわさざるを得なかった。乞御了承。』との断りがある。天皇に関する論述の少ない本書が御成婚記念にふさわしのか、やや疑問ではあるが、諸般の事情があったようだ。
よって、本書は天皇論としてではなく、宗教論として読む方が適切であろう。小室氏は2000年に「日本人のための宗教原論」を執筆しているが、おそらく本書がその原型になっていると思われる。
では、天皇に関する論述を期待していた人はどうすればよいか?そのような方には2005年にワック出版から出版された「日本国民に告ぐ~誇りなき国家は滅亡する」をお薦めしたい。第4章に幕末以降の天皇の位置づけについて詳細な解説がある。また、この本では天皇論だけでなく、歴史認識問題を含め、現代日本の諸問題の本質が指摘されている。こちらはタイトル通りの憂国の書である。
- 感想投稿日 : 2015年5月4日
- 読了日 : 2015年3月23日
- 本棚登録日 : 2015年3月23日
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