芸術起業論

著者 :
  • 幻冬舎 (2006年6月1日発売)
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本棚登録 : 1453
感想 : 171
3

難しい本だ。

村上隆が言いたいことは非常によくわかるし、説得力もある。
難しいのは、村上隆がこの本でたくさんの隠し事をしているという点だ。

アートが欧米では歴史的文脈に基づいた一種の商品であり、
アーティストとして評価されるということは、
そうした文脈と市場を把握した上で、
ルールに則った(そのルールを如何に奇麗に壊し、新しいルールを提案するか含めた)作品を作る事だ。
という主張は非常に説得力に富んだ、面白い視点だと思う。
また、そうした視点を欠き、市場原理とかけ離れながら、
大学という安全な空間でぬくぬくと身内受けだけでやっていける日本の芸術界に対する厳しい批判も、多大な有効性を持っているだろう。

こうした身も蓋もなく、なおかつ面白い議論は僕も大好きだ。
一方で、村上隆はこの本でたくさんの隠し事をしている。

まず第一に、じゃあ日本人アーティストはどうすればいいの?という疑問に関する具体的な答えは無い。
世界のアート市場の現状を把握しろ。という言葉はある。
でも、それをどのように行えばいいのか?という具体的な答えはない。
端々に村上の体験に基づいた提言はあるが、それらは必ずしもまとまり体系だってはおらず、
世界のアート市場の現状を把握するメソッドに落とし込むヒントとしてこの本を読む読者にゆだねられている。
本書が難しい書だと感じた点のひとつがここにある。
第二に、本書はあまりにもアート作品を商品として論じすぎているように感じられる。
後半、マティスを賞賛するあたりの文章では、村上隆自身もアートにただの商品以上の価値を感じていることが伺えるが、
商取引における額面以上に、美術作品に関する"価値"を論じることは、
村上隆自身も有効な論述を構築できず、誤摩化したのではないか。という印象を感じる。

本書はアートに関して語った本のなかでも、誰にでもわかる言葉で語った相当にわかりやすい本である点で希有な物であり、
現代において疾駆する芸術家が、自らの内に抱いた矛盾すらも内包し、読者に突きつけた、相当に面白い本であるのは確かだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年7月5日
読了日 : 2013年5月10日
本棚登録日 : 2013年5月10日

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