秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2010年9月25日発売)
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本棚登録 : 2542
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大好きな恒川光太郎の3冊目は「囚われた者たち」による3作品から成る短編集。表題作の『秋の牢獄』はおなじ1日を何度も繰り返し、そこに生きる人々の苦悩と葛藤というSF短編などで扱われるやすい題材が恒川の手になると見事に寓話に変化する力量を見せつけられる良作。充実した一日の意義に気づいた者は、例え明日にもその命が尽きようとも「人生」を意義あるものと出来るというメッセージはレヴィル・シュート著『渚にて』を彷彿とさせる。
『神家没落』は高橋留美子著による漫画『うる星やつら』第14巻2話目の「カマクラ伝説」とダイアナ・ウィン・ジョーンズ原作による『魔法使いハウルと火の悪魔』のスチュエーションを融合させたような設定を怪談風味で仕上げた秀作。
『幻は夜に成長する』は超能力(幻術)を使えるが故に、その力にに縛られ、囚われの身となる運命を辿る女性の儚くも恐ろしい悲話はスティーヴン・キング著『キャリー』筒井康隆『七瀬ふたたび』宮部みゆき著『鳩笛草』、『クロスファイア』に並ぶ、能力者の悲劇。
優しい描写の中で、やがて訪れる残酷な運命に翻弄される人々の姿は儚く悲しい。しかし、読了感は殺伐とせず、何処か安らぎすら感じさせる文章はさすが恒川光太郎。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2013年8月31日
読了日 : 2013年8月3日
本棚登録日 : 2013年8月3日

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