現代哲学の戦略: 反自然主義のもう一つ別の可能性

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  • 岩波書店 (2007年10月18日発売)
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本書はさまざまなテーマを扱った論文集だが、現代における反自然主義の可能性を追求する、第7章から第9章がもっとも重要。

第7章は、ニーチェの「反自然主義」的戦略を分析し、そこから脱する試み。ニーチェは、人間の理性に特有な「反省」という能力に注目することで人間の意識に内在する「表象」の領域を「自然」から切り離す反自然主義に対する批判をおこなった。ところが著者は、まさにそのような「論敵」を想定することによって、ニーチェが反自然主義の選択肢を貧しくしてしまっていると述べる。その上で著者は、セラーズからマクダウェルへと引き継がれた「理由の空間」(the space of reason)の発想を足がかりに、「反自然主義のもう一つの別の可能性」を探ろうと試みる。

私たちがみずからを取り巻く状況へコミットすることは、「理由の空間」という規範的ゲームに参与することだと考えられる。この規範的領域を、非推論的な因果的説明によって自然主義的に解体することは、「自然主義的誤謬」と同種の誤りだとみなされる。こうして著者は、意識の内部領域の独立性に基づくタイプの反自然主義に与することを選択しない、「反自然主義のもう一つ別の可能性」を見いだしている。

第8章は、マクダウェルの「知覚の概念主義」の立場を擁護する論考。まず取り上げられるのは、Ch・ピーコックによる経験主義的な立場である。著者によれば、ピーコックは知覚の権利を大きく見積もりすぎている。私たちの知覚は、必要があれば明示化することができるような潜在的な仕方で機能している。知覚は私たちの知識を内在的に正当化する理由ではなく、真なる信念を生み出すことができる信頼可能なメカニズムとみなすべきである。

だが著者は他方で、信頼性主義に大幅に譲歩するR・ブランダムに対しても批判を展開する。たとえばヒヨコの雌雄を区別することができても、その区別の根拠となる特性を述べることのできない鑑別者がいる。だがそのことは、正当化の概念を不要にしてしまうという意味で内在主義を解体するものではないと著者はいう。信頼性は、人びとがそれを他者に帰属させることで「理由の空間」の内に位置づけられるのでなければ、私たちの知識の正当化に関係することができないからだ。ヒヨコの鑑別者は、一定の状況下でのみずからの判断が信頼できると他者によって是認され、みずからもそう信じることで、理由を与える社会的ゲームに参与しているのでなければ、識別が可能な状況を再認することができないし、再認できたとしても、自分がその状況で何をすることが許容されているのか分からないだろうと著者は述べている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学一般
感想投稿日 : 2011年3月10日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年3月2日

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