風土―人間学的考察 (岩波文庫)

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著者 :
paralogicianさん 文庫版   読み終わった 

日本文化論の古典。著者自身がヨーロッパ留学時に見聞したさまざまな土地の気候・風土とそこに住む人間が相互に形成しあう関係にあることを、著者の持つ天才的な詩人的直観によって捉え、そこから翻って日本の風土と日本文化との関係がもつ特色を描き出そうとする試み。

著者は本書の冒頭で、「この書の目ざすところは人間存在の構造契機としての風土性を明らかにすることである」と述べており、けっして「自然環境がいかに人間生活を規定するかということが問題なのではない」、「ここで風土的形象が絶えず問題とせられているにしても、それは主体的な人間存在の表現としてであって、いわゆる自然環境としてではない」と断っている。

とはいえ、本書の第2章に示された「モンスーン」「沙漠」「牧場」という三つの類型についての具体的な叙述が、自然環境が人間生活を規定するという思考方式からほんとうに解放されているかは疑問である。他方、もし本書が著者の意図するように「人間存在の構造契機としての風土性」についての考察となりえているとするならば、今度は戸坂潤が批判したように、観念論の立場に陥っているのではないかという疑念も生じてくる。まして本書の第5章で、著者がドイツ観念論の系譜における風土と歴史についての考察をたどりながら、新たな風土学の展望を開こうとしていることを思えば、戸坂ならずとも上のような疑念を抱かざるをえないだろう。

こうした問題を孕んでいるとはいえ、本書が重要な洞察を含んでいることを否定することはできない。和辻は、本書の叙述が主観的で一面的な印象に基づいていることを、むしろ本書の積極的な意義として捉え返そうとしている。彼は、この本がある短い期間だけ他の風土に生きる「旅行者」の立場から書かれたものだということを明瞭に自覚していた。じっさい彼は「人間は必ずしも自己を自己においてもっともよく理解し得るものではない。人間の自覚は通例他を通ることによって実現される」と記している。

もし、こうした議論のもつ積極的な意義を救い出そうとするならば、自分自身が住まう風土から他の風土へと越境するという行為は、双方の風土と人間の特性についての理解が成立する可能性を開く振舞いだという考えを、和辻の方法論的な構えとして理解することもできるのではないか。

レビュー投稿日
2011年6月5日
読了日
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本棚登録日
2011年6月5日
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