『論語』についての分かりやすい解説書。
孔子が生きた時代は、歴史的に積み重ねられてきた慣習的な道徳に基づく共同体原理と、新たに出現した法に基づく国家的原理がせめぎ合っていた。こうした状況の中で孔子は、共同体意識を鍛えなおす必要があると考えていた。『論語』に見られるのは、このような危機感に基づく孔子の思想である。
本書はこうした観点から、国家や家族、生活などに関する孔子の思想を紹介している。とくに著者は、孔子が土俗的な魂の再生の思想を、孝行と子孫の繁栄を願う生の世界に結びつけたと述べている。古代中国では、「儒」と呼ばれる死者の招魂儀礼の主催者によって、祖先祭祀が執り行われていた。孔子は、生ける父母に対するこのあり方を規定した「孝」の考え方を、父母なき後も祭祀を懸命におこなうことに拡張した。こうすることで、古代から執り行われてきた儒教的習俗は、亡き父母を祭祀するとともに、自分の死後に祭祀をおこなってくれる子孫の繁栄を願うことにつながる。このようにして孔子は、土俗的な宗教を現世的な「経世致用」と地続きのものとして捉えなおしたのである。
さらに著者は、「未だ生を知らず、いずくんぞ死を知らんや」という有名な言葉を、死に対する無関心の意味に解するのではなく、生きているときの親に正しく仕えることのできないものが、どうしてその御霊に仕えることができるのか、という意味に解し、けっきょくこの言葉は、死後の霊魂に対して正しく仕えるべきだということを述べていると解釈する。
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文庫版
- 感想投稿日 : 2014年3月20日
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- 本棚登録日 : 2014年3月20日
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