反アート入門

著者 :
  • 幻冬舎 (2010年6月10日発売)
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現代アートの出生と来歴を解説し、その問題と新たな芸術の可能性への展望が語られている。

まず著者は、現代アートの潮流を解き明かすことからはじめる。近代以降、芸術の秩序の中心にあった神が退場すると、芸術とは何かという問題が個々の芸術家や美術批評家たちに鋭く突きつけられることになった。その中から、絵画とは何よりもまず、一定の質を持つ画布の表面に絵の具をこすりつけたものだという「無神論」的な絵画が生まれた。現代アートの歴史において主流をなす抽象表現主義はそのようなものとして理解できる。著者は、こうした潮流が美術批評家のC・グリーンバーグやMoMAに主導されて登場する経緯や、J・ジョーンズ、F・ステラらの作品、アースワークの思想を、平明な言葉で解説している。

その上で、そうしたアメリカの主導で進められてきた現代アートの歴史が、同時代の政治力学との密接な関わりを中で構成されてきた一つの「制度」だったと著者は指摘する。また、そうした「制度」からはみ出すようなアートのあり方を示すものとして、ウェスト・コーストのアートや、中国の新世代の芸術家の実践が紹介されている。

ところで、これまで国家や社会という制度と芸術という制度は、対立するように見えながら、じっさいには相補的な役割を果たしてきた。だが現在、グローバル化によってあらゆるものの価値が市場に一元化される事態が進行している。いまや美術批評家は、市場で起こっていることを現代思想や批評理論を駆使して釈明し、これから起こることを中短期的に予測するコンサルタントになっている。

こうした状況を踏まえて、著者はこれからのアートのゆくえについて思索をめぐらせている。ただし著者は、「芸術の精神的価値を取り戻せ」といった復古的なやり方はとらない。すべてが市場の中で流通する現代の状況の中では、芸術作品という「もの」に固有の価値が宿るとは考えられない。著者は、現代のアートが立ち至ったこうした状況を必然的なものとして受け入れる。その上で、芸術作品という「もの」からの解放によって、一元的な市場社会の中でべつの次元が開かれる可能性を探ろうとしている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美学・芸術学
感想投稿日 : 2011年4月14日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年4月13日

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