わかるとは何か (岩波新書 新赤版 713)

著者 :
  • 岩波書店 (2001年2月20日発売)
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本棚登録 : 331
感想 : 30

著者は、人工知能や自動翻訳などの技術につながる研究をした元京都大学総長、国立国会図書館館長等を務め、2021年5月に亡くなったとのこと。

日々小さな頭で素朴な疑問を追いかけたり、やり直しの英語の勉強をする中で、物事を「理解する」「わかる」という過程のことが気になっていた。
一番のきっかけは、下記本書の抜粋に深く頷く思いを抱いたため。
「教えてもらったことを他の人に言ったり教えたりして、自分の知っていることを再確認するという作業をおこなうことは大切である。その作業の途中で、自分の理解したと思っていたことが、正確でなかったり、論理的におかしいということに気づくことはよくある。そこで考えなおし、自分の理解のしかたを訂正したり、またわからないところを調べなおしたりすることになる。」
こんな面白い発見があった、こんなことを聞いた、と喜んで人に伝えようとしながら、うまく説明できないことにはたと気がつくことがよくあり、それを勝手に自分の宿題として、また学び直した上で改めて話してみる、ということを繰り返していた。その過程で、自分の「理解」がどこまでは明らかで、どこまでがあやふやかということを自覚すること自体や、わからない状態からわかろうとする行動、わかった!という状態への自分自身の「理解」の変化を面白く感じていた。

一方、本書の「はじめに」では、「理解する過程がどうなっているか」といったようなことを解説するものではなく、「一般の人たちが社会において科学技術と共存していくためには、科学技術とは何かを理解しなければならず、そのためにどのようなことを考える必要があるかを明らかにすることを目ざしている」と断り書きがある。ただし、そのことを述べる過程で本質的に通じるところもあるだろう、とも。

私は「科学技術」と名付けられそうなものには苦手意識があるので、前半のその辺りは読み飛ばしであるが、「ひろゆき」流の「論破」の構造を言い当てている箇所(著者はそれら固有名詞を出しているわけではないが)や、原発の危うさに関しても触れた部分には共感した。
後半の言葉や文章と「わかる」こととの関係性の話はやはり面白く読んだ。一読目は、終章の西洋/東洋思想の比較〜21世紀は東洋的な思想が重要という結論は、短絡的すぎるような気がしたが、数日経って、またその間にエーリッヒ・フロム『愛するということ』を読んでいた影響もあるだろうが、私の今の興味関心にぴったり当てはまっていることのように思った。すなわち、西洋思想が科学技術の進展を牽引してきたこと、そして今やそれが限界を迎えていること、など。哲学の専門家ではなく、科学の専門家、しかも自動翻訳や人工知能など、今身近に触れている技術の元となった分野が専門である人からの言葉である、というのが、かえって説得力があるように感じる。

それにしても、新書はなんて素晴らしい存在なんだろうと改めて思う。日頃抱くちょっとした疑問に対して、その扉を開く役目を果たしてくれる。その先の進み方は読んだ人に委ねられている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年4月12日
読了日 : 2022年4月2日
本棚登録日 : 2022年3月10日

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