新世界より (上)

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本棚登録 : 3803
レビュー : 599
著者 :
ぴーかんさん 本・雑誌   読み終わった 

しばらく前に図書館で見かけてまったくの先入観なしで借りて読んだのだが、久々にすごい傑作に出会ったという気がする。

舞台は1000年後の日本の関東地方。この時代、人々は昔の農村を思わせるコミュニティという単位で生活しており、全員が「呪力」と呼ばれる強大な念動力を当たり前のように使いこなしているが、そのあまりの威力ゆえに呪力が人を害することに向けられないように高い倫理規定のもと、攻撃抑制と愧死機構を遺伝子に組み込むなどして、厳密に管理されている。主人公はちょうど12歳の少年少女、呪力の萌芽が芽生えたところであり、その「正しい」使い方を学ぶための上級学校に進むところから物語は始まる。物語は早紀という少女の視点から丹念に書き込まれるが、そこで描かれる世界の深さ、広さが尋常ではない。コミュニティは八丁標と呼ばれる結界で外部から「悪いもの」が入ってこられないように守られ、子どもたちが呪力を「正しく」身につけることができるよう、都合の悪い真実を知らせないように厳重に管理されており、その一方でコミュニティの外ではバケネズミと呼ばれる人間並みの知性をもった生物が種族間での抗争を続けていたり・・。すべてが作者のイマジネーションによって作り上げられた壮大な虚構世界なのだが、物語の最初から最後まで破綻することがない。この筆力はさすがだ。

上巻では主人公たちが夏休みに、禁止されていた外部世界との接触を図り大人たちが隠していた世界の真実を知る冒険譚、下巻では、主人公たちが大人になった時期の話だが、上巻で描かれた外部世界との接触が原因となって血腥い大殺戮が展開されてしまう。いずれも描かれた世界の中では当然起こるべくして起こったように感じられる。最初に作者が作り上げた世界観の完成度が高いからであろう。

タイトルの「新世界より」は、ドヴォルザークの交響曲「新世界より」からきている。主人公の居住するコミュニティでは、ちょうど夕方の刻限に街中でこの曲の第2楽章'遠き山に日は落ちて・・'が流れるのだ。私が通っていた小学校でも夕方のたそがれ時に、下校を促すアナウンスとともにこの曲が流れていたのを思い出した。沈む夕日の物悲しさと曲調が妙にマッチしており、胸が苦しいような寂しさに襲われたことを思い出す。外部との接触を遮断し進歩することを放棄した、まさにたそがれ時のコミュニティの中で流れるこの曲を主人公たちはどのような思いで聞いたのだろうか。

あまりに壮大なので映像化は無理だと思っていたのだが、2012年秋にアニメ化されるようだ。期待して待ちたい。

レビュー投稿日
2018年11月19日
読了日
2012年7月29日
本棚登録日
2018年11月19日
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