西村賢太の私小説『陰雲晴れぬ』、『肩先に花の香りを残す人』、『寒灯』、『腐泥の果実』の四篇収録。
四篇に分かれているが、初めて恋人と呼べる存在となった秋恵との同居生活・暮らしを、時系列に並べたような作品。
西村さんの作品を読むのはこの本で4冊目となったわけで、登場人物・主人公のキャラクターはもう、十分に承知してしまった(苦笑)。ゆえ、どのような挙措をとるのかも、自然と予想できるようになっているわけだが、それでも、喧嘩のときの貫多の暴言の激烈さは凄まじくて、慣れることができない(苦笑、再び)。
「てめえは何を生意気に、このぼくに対して説諭をしてやがるんだ!」(『陰雲晴れぬ』から)
「返事をしろい、蓄膿女!」(『肩先に花の香りを残す人』から)
「すべては主人たる、このぼくの流儀に従ってもらうからな。それがイヤなら本当に出ていけ!」(『寒灯』から)
どれだけ口論しているんだと思うくらいに喧嘩のシーンが登場する。それも、まずほとんどが貫多の我侭に端を発するもので、喧嘩の理由となる原因も、料理の味付けであったり、衣類についた匂いであったりと、正直、恋人である秋恵に同情してしまう。よくもまあ、こんな人と一緒に生活できるものだなあと。あ、同情というよりも感心か?
貫多は、先の暴言の類のとおり、どうしようもない男なのだが、一方で妙に女々しいところもある。自分の誕生日プレゼントに手紙がついていないなどと駄々をこねたり、年末年始に故郷へ帰省しようとする秋恵に薄情だといったり。もう、本当に子供、「お子ちゃま」なのである。
言動のギャップの激しさ。これは読者にとってはおもしろくて仕方ないのだが、秋恵は翻弄されっぱなしで辛度くなかったのかと、喧嘩の度に同情してしまう。うん、これはまぎれもなく同情。
何にせよ、こんな私生活があるものなのだなあと、ゲンナリしてしまう。けれども、こんな私小説を書く(出版する)西村さんには恐れ入ってしまう。
- 感想投稿日 : 2014年4月4日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2014年4月4日
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