江國香織の作品の中で三位以内に入る小説。
その何位かはそのときによって変わる。
この本に出会ったのは10代のときだった。印象としては、壊れそうなものを強く書く人なんだなぁと。もしくは日常にある何気ない恐怖をゆるりと表現してしまう。
日常とは何気ないようで実はそこは死と常に隣り合わせである、という恐怖。それをさらりと書いてしまう。
この小説は小説っぽくない、というのも感じた印象のひとつだ。エッセイを読んでいる感覚にもなれる。小説、エッセイ、日常、様々なことに混乱させられる。そして、恋愛。
どんなにリアルに恋愛のエグい部分を描写しようとしてもこのような非現実かつ現実的世界をこんな風に描写していく作家はかつていただろうか?というくらい、文章力がすごい。一行一行に線をひきたいくらいだ。
そしていつも思わされるのは、江國さんの表現には情景がそのままみえてしまう。例えがなんと情景そのものだから、すらすら心の中に入ってくる。心で、安心して読める小説とでもいえようか。
しかし、ひとつ、難点がある。実はこの小説とても危険な小説ということだ。それがどう危険なのかは読んだものにしかわからない。家庭のある人と恋愛することが危険、とかそういうものではない。
あまりにもすらすら読めてしまうのにしかじわじわ心に深く刻まれていく。ひとつひとつの描写が。
そして読み終わったとき(もしくはその途中かもしれない)には、私は感情のひとかけらをなくしてしまう危険性もあるということだ。もしくはまだ名もない感情が生まれたことによりどうそれと接したらいいのかわからず、ただぼーっと何かを眺めるようになってしまうのかもしれない。
読んだあと、読んでいる最中、心地よい充実感と喪失感みたいなものが混合してくる。何を、と言われれば、生活そのものの、と答えるかもしれない。
- 感想投稿日 : 2014年9月23日
- 読了日 : 2014年9月8日
- 本棚登録日 : 2014年9月8日
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